第28話 牧番

製版会社を辞めてしばらくは、引き篭もっていた。

もう社会が嫌になっていた。社会に順応出来ない自分が嫌になっていた。


そんな時、農業をやっている上の従兄弟から連絡が入る。

「牧場の牧番を住み込みでやらないか?」

僕は、すぐにOKした。

しかし、「山に入る前に全身を検査してから行きたい」と伝える。


僕は、十数年、マトモな検査を受けたことがなかった。

母が癌の手術をしたこともあって、検査は、牧番の話がある前から考えていた。

検査でほとんど異常は無かったが、大腸ポリープが見つかった。

大腸ポリープなんて珍しいものでもないので、「ささっと取って牧場にいこう!」

内視鏡手術の予約をとり、手術当日(検査から三ヶ月が経っていた)術前検査で、何やらひっかかり、「がんセンターの血液内科へ行ってください」


ん?何?


がんセンターの血液内科へ行くと僕は、「慢性骨髄性白血病」

余命は5年。慢性は早期なので、薬が効けば、それ以上生きられるが、薬の効く確率は70%。そして、薬の副産物が体液に混じるので奇形児が生まれる可能性が高く子供は作れないらしい。もし、子供が欲しいなら、病院の管理下の元、受精期間などを計算して、その時期だけ薬を辞め、子供を作らないといけないらしい。


それから、入院、検査の毎日。

牧番の話は流れてしまった。


最初の薬は身体が慣れていないのもあるだろうが副作用が強く、身体のいろいろな部分が急につる。高速道路で運転している時に足がつった時は、死を覚悟した。


その時、44歳。

今、50歳。

薬は順調に効いてくれている。


僕は余命5年を超えた。

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