第27話 ケンちゃん

僕は、ケンちゃんを誘った。

製版会社で300ページほどのカタログを作る為だ。

ケンちゃんは、大学の後輩で会社は違ったが、打ち合わせやパーティーなどで偶然に顔をあわせる事があった。


ケンちゃんは20代の頃から鬱病に悩んでいたが、元フォントデザイナーで、文字関係、組版には、誰よりも詳しい。そこで、僕の苦手な面を補って欲しかった。


仕事でも僕たちは上手くやっていた。お互いが会社に秘密にしている精神的なものをお互いは知っているので、僕がキツそうな時は、ケンちゃんが「後はやっておきますから、先に上がってください」

その逆もあった。


仕事は順調に進んでいた。そして、その会社で一番売上を上げている案件だった。そのカタログは年数回入る。僕は、会社の売上は上がっているものと思っていた。


ある日、社員全員が、ひとりずつ面接の様なものに呼ばれる。

(もしかしてリストラか?と思っていた)

会長と社長と面談。

「1ヶ月分の給料を待ってくれないか?」との事。

僕は悩んだが、

「ちゃんと後払いしてくれますよね」と念を押し、了解した。


最初は二万円ずつ分割で給与に上乗せしてもらっていたが、それもいつのまにかうやむやになり、自然消滅していく。

よくよく聞いてみると部長は半年分、古い社員は三ヶ月分もらってないらしい。

皆、生活の為に借金していた。


本条さんは言う。

「会社は、もう、銀行が融資してくれないから社員に借金して会社を運営しているだけだろう」

そのとおりだ。

流石だと思ったが、本条さんも誰も動かない。


僕は、労働監督局に駆け込んだ。

給与未払い、サービス残業の強要。パワハラ。

全て、話す。

労働監督局は「指導は出来るが強制はできない」と言っていたが、指導には入ってくれるらしい。


そして、労働監督局が調査と指導に入った。経理部長の横領が発覚する。

無茶苦茶だ。


その後、労働監督局に密告したのはだれか?という話題になる。僕は知らん顔していたが、そういうことは、なんとなく分かってくるものだ。


社長からのアタリが強くなる。

僕は怖いもの無しなのか、バカなのか。

呑みの席で

「社長!給料払わないのは犯罪ですよ」と大声で言う。


そして、しばらくして、また、僕は自分で自分を追い込み、鬱再発。

行動がおかしくなって来たので、

三ヶ月休職した。

社長は出て来れないのを分かっていて「一度出社しないさい。今後の事を話し合おう」と電話してきた。

無視して行かなかったら、休職期間が終わって「話し合いに来なかった」という理由でクビになる。


数時間だけ出社し、カタログの仕事をケンちゃんに引き継ぐ。

「WEBサイトを作って原稿を集めるんだよ。しかし、HTMLまでは教えないよ。自分で勉強してね。チラシを引き継いでもイラレの使い方までは教えないでしょ」と言うとケンちゃんは頷いていた。



その後、数ヶ月して、部長から電話がある「あのホームページは誰がどうやって作っていたのか?」なんて聞いてくるので「僕が普通に作っていましたよ」と言ってあげた。

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