第21話 デザイン書道
デザイン書道の先生は、地元でも何本かの指に入る有名なデザイナーだった。
新入社員の頃、CGデザイン協会の会合でゲストで来ていたが、雲の上の存在だった。デザイン書道というのは、よく分からないが、「その人と話しができる」という喜びで、電話し、行くことにする。
場所は、ぼくのアパートから徒歩20分。行きつけのBARのテーブル席なので、誰よりも場所には、馴染んでいた。
先生は「昔、象形文字から発達した漢字を絵に戻しているんだ」
いくつかの作品を見せてくれた「龍」「馬」「鳥」これは、面白そうだ。
今回は体験入会だからタダでいいよ。
しかし、講習料は1時間。4千円。結構な値段である。しかし、僕は、自分への投資は、惜しまない。
とりあえず、「山をいくつか書きなさい」
自分の発想の幅のなさが悔しかった。
しかし、それから、横線、縦線、放射状の線の練習。
どうしても縦線が書けなかった。
家に帰っても毎日毎日練習する。
しばらくして、やっと分かって来た。
腹筋に力を入れ、筆先に精神を集中、腕ではなく、身体で書く。
すると縦の直線が書ける。
宮本武蔵の気持ちが少し、分かった様な気がした。
WEBデザイン会社は、年中無休だったが、週一は休みをもらい、デザイン書道教室に通った。デザイン書道にどっぷりハマってしまった。
展示会前になると同じ文字を100枚以上書く、文字も段々進化していく。
文字の形が決まれば、また、数十枚書く。
色紙は安いものではないが、20枚ほど書く。その中から、1枚を選ぶ。19枚はゴミだ。
額縁は、ピンキリだが、自分の気に入ったものにした。銀箔を貼られ縁の太い額だ。自分の作品を値段だけで決めた額には入れたくなかった。
展示会の搬入の際、いち早く、壁の真ん中に僕の作品を貼った。
皆、おとなしい方たちだったので、特に何も言われなかった。
壁に皆の作品が並ぶと僕の作品は壁の真ん中、作品の出来は、好みが分かれるだろうが、銀箔の額は、一際、目立っていた。
まるで、全体の中心に配置した先生が書いたような作品に見える。
僕は、満足していた。
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