第15話 印刷会社

フリーになり、それまでのクライアントは、いくつかあったが、レギュラーが無い。孫受けでもひ孫受けでもなんでも良いから、仕事が欲しかった。ギャラは二の次だ。

知り合いのデザイン事務所やデザイナー、看板屋など、いくつも回った。

飛び込みも何件もした。「とりあえず、作品だけでも見て欲しい」と。


そうやって回っていたら、名前しか知らなかったが印刷会社では一番大きな地元企業「小島印刷」にアポイントメントが取れ、向かうと打ち合わせブースに通される。

作品を見せ、いろいろ話していると「生産部にデザイン課があるので、そこに来てくれない?」と言われ、案内される。

今度は、デザイン課のトップとの面接。実は、僕が最初にいた会社と競合していたクライアント案件があったので、その話を聞かれる。ぼくは、制作はしていたが、プレゼンにも参加させてもらえなかったので、全く知らなかったが、とりあえず、知っているフリをした。

「外注ではなく、契約社員になるけど、ディレクターとして入ってくれない?」

と言われたので、(印刷会社なら製版の事も印刷のことも学べるだろう。と思い)OKした。


そこには、最初の会社でバイトしていた女の子もいたので、すぐに馴染めた。


デザイン課のトップは係長。その下に僕を入れてふたりのディレクター。その下にデザイナーが各5人ずつ着く。

以前からいたディレクターチームは旅行誌がメイン。

ぼくは、隣の市の広報誌の担当になる。丁度、僕が入る前にプレゼンと見積もりが通り、ディレクターを探していた様だ。


トップの係長からは「ほとんどの人がオペレーター上がりなので、デザインの面白さを教えてね」と言われていた。


広報誌では、記事のコーナー毎にマークを入れることが決まっていた。

5人のデザイナーを集め「僕も作るから、みんなも作ろうよ。その中からコーナー毎に3点を皆で選考して、クライアントに提案しよう」と言った。


僕は負けても良かった。自分が作ったものが、1年間広報誌に載り、印刷される喜びを感じて欲しかった。


ひとりのデザイナーが、ぐちゃぐちゃに並べたスケッチの様な出力紙を持ってきた。

「社内でも人に見せる時は、きちんとグリッドに配置して見せるものだよ」

と教えると皆それに習ってくれた。


マークの提案後、僕の作品は、採用が少なかったが、デザイナーたちは、自分の作品が選ばれたことに、すごく喜んでいた。


これから楽しくなりそうだ。



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