第9話 卒業制作

就職活動は、100数社資料請求し、東京にも何度か足を運んだ。まだ、バブルが少し残っていたので、交通費やホテル代を出してくれる会社もあったが、何もない時は、深夜バスで、新宿に着き、数社回って、深夜バスで帰る。0泊3日。

CGの会社を回っていたが、流通チラシの制作会社が最初に決まった。就職活動の疲れもあったが、チラシは、グラフィックデザインとセールスプロモーションの基本だろうと思い、入ることに決める。


そして、卒業制作。

大学4年になると講義が極端に減る。それをいいことに中間発表まで、遊び呆けていた。中間発表は散々なもので、酷い作品一枚しか出せなかった。


僕は、音を視覚化したかった。

ディズニーのファンタジアを何回も見て、カンディンスキーの書籍を何度も読んだ。そして、街中で、車の音や工事現場の音を聞いてスケッチした。制作は、グラフィックワークステーション(GWS)とMAC。GWSは、タグを打ち込んでいくので、結構大変。情報科は昼しか開いていないので、昼は情報科でGWS。夕方から研究室で警備員が回って来るまで、Macで制作に励んだ。


そして、プレゼン。B1のパネルを6枚並べて、GWSのプログラムを出力した束を見せて、気合いで乗り切った。

アナログで勉強してきた教授陣は、たぶん僕の話していることが分からなかったのだろう。ポカンとしていた。


卒業制作は、順位が付けられ、15位までは、デザイン誌に送られる。

僕は8位だった。付き合っていた彼女は、6位。

1位は、同じ研究室の女の子。ずっと、何やらDOSパソコンでカチャカチャやっていると思ったら、最終的に業者に発注し、アクリル板に穴を開けてもらい、そこに光を通す。どうやら、光の屈折などを計算していたらしい。

衝撃でした。


僕の作品に対するデザイン誌の批評は「古い」と酷評だったが、やれるだけのことは、やったので、達成感はあった。


入社時に「卒業制作を持ってくるように」と言われていたので、

入社前に総務課の担当に「Macはありますか?」と聞いたら、「本社にはあるよ」ってことだったので、出力紙は持たず、フロッピーディスクを20枚ほど持っていく。しかし、どこを探しても誰に聞いてもMacがない。

総務課の担当を問い詰めたら、「思わず言っちゃた」だって。


おいおい、勘弁してくれよ。

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