第6話 ピザ

大学の授業料は親が払ってくれていたが、私立なので、学費は相当高い。ぼくの4年間の学費で、おとうさんは、たぶん、ベンツに乗れるだろう。

それ以上、頼るのは、申し訳ないので、微々たるものだと思うが、教科書、画材、食費は、バイトで稼いでいた。

教授からは、「画力ではプロに勝てないので、画材だけは良いものを使いなさい」と言われていた。色鉛筆もトンボとかではなくポリクロモスを使っていた。

良い画材は、それなりに高いもので、何か、バイトを探さないとな。と思ってアルバイトニュースを見ていると家から原付で20分くらいのところのデリバリーピザ屋が求人を出していた。

「ピザ食えるかな?」くらいの軽い気持ちで、面接を受けてみる。バイトのリーダー格の人から、「なんでココに来たの?」と言われたので、「ピザが好きだからです」と答えたら、あっさり受かってしまった。

健康そうだったら、誰でも良かったのかもしれない。


最初は配達だけだったが、一年くらいするとメイキングも任される様になる。給料日前は、みんなお金がないので、わざとトッピングミスをする。トッピングミスは、余るので、バイトが食べて良いことになっていた。


ここの社員は三人の店長。その他は、高校生から大学生のバイト。

店長の中に、昔、料理人で、酒で失敗して、オーナーに拾われた人がいた。

僕らは、この店長が好きだった。

料理酒は、なぜか特級酒。仕込みの時、こっそり呑んでいたらしい。

仕事が終わって呑みに連れて行ってもらい「お前ら、好きなもの頼め、今日は、俺のお奢りだ」と言うが、僕らが気を使って安いものを注文すると「大将!メニューの高いものから、順に出してくれ!」と言う。

みんなに「今日は、無礼講だ!タメ口で良いぞ」と言う。

豪快な人だ。しかし、酒で失敗しただけあって、酔うとタチが悪い。

行きつけのスナックが閉まっているとシャッターをガンガン蹴り、「開けろー!」と言う。電信柱につかまって「ミーン、ミーン」と言う。

一緒にいる中の一人が、ちょっと家に電話入れときますね。と電話ボックス(その頃、携帯電話は無かった)に入れば、電話ボックスに飛び蹴りを食らわす。

だんだん、行動がおかしくなっていく。しかし、僕らは、楽しんでいた。ハシゴに次ぐハシゴ。高校生の女の子も一緒に、夜明けまで、そんな奇妙な行動が続く。その店長は、素面の時は、大人しいだけどね。


僕は、その店長に酒を教えてもらった感じがする。そこまで、酷くないと思うのだけど、呑み方が、だんだん、荒れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る