第15話 異種動物

 一九八九年十二月一日

「ホントに全部売る気ですか?もったいない、まだまだ上がりますよ」証券会社も、不動産仲介会社も、同じことを言った。由希は四年六ヵ月前に買った株式と不動産を全て売った。

 一九九〇年に変わりバブル経済は崩壊。あらゆるものの価格が下がり続ける。由希は地図を開き、一点を見つめた。



 アフリカ大陸の西を南北に貫く大地溝帯が、数々の湖を従え、紅海とぶつかる。その先まで、火の山が連なる。

 大地溝帯に人類が誕生したとき、火山が生成する岩のうち、ガラス質で光沢を放つ黒曜石はサピエンスの視線を奪った。 神経中の伝達物質、銅と反応したのだ。

 割ると鋭くなるその石の性質はサピエンスに刃を与えた。

 喰いたい、喰われたくない、異性が欲しい。これらだけにとどまらない他の欲を持つ動物が誕生した。

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