もしもフレンズが本当に居たら オオタカ編2

「爆竹の味は美味しいかこの屑共!!!!!!!!」



 爆竹、酔っ払ったときに買っといて良かった。

 今の爆破で猟銃を持った集団は少しだけバラけ侵入する隙が出来たので、迷わず突入しフレンズの救出に向かった。妹が二人も居たのは不覚だったが全員救い出さないと冗談抜きで命を奪われてしまう。暴徒化した人間ほど怖いものはない。


 いくら強盗とその姉妹とは言えこんな奴らになすがままにされるのを液晶の向こうから見るのはどうしても嫌だった。


 例え自分をぶん殴って売上金を持ってった奴だとしても。



「おい!! 大丈夫か強盗!! おいおい!!!!」


 ひどい怪我だ。妹も男たちに容赦なくリンチされて痣と内出血だらけ。

 人はここまで残酷になれるのか。



「おるあああ!!」



 俺は威勢のよい掛け声とともに、全体重を乗せてタカを拘束している男の顔面を殴りつけた。



「お、おらどうだ、効いただろクソ野郎!!」

「おぉん?」

「あっあっ、あのー女の子に銃を向けるのはあまりよろしくないと思いますのでご遠慮いただきたいと思うんですけども」

「お前、フレンズに味方するのか? ってことは今の爆竹お前だろ」

「いやいや、誤解です誤解です




 おまわりさああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」



 俺の掛け声で警官の増援と機動隊員達が一斉に突撃し怒号と地響きが響き始めた。


 道中猟銃やら何やらで何度も殴られてボコボコにされたが人混みを押し分けかき分けなんとかフレンズのもとまで辿り着き、顔を見ることが出来た。



「おい!! しっかりしろ強盗鳥女!!」

「私は良いから…妹をお願いっ…」

「よくねぇ馬鹿!! 妹がいるなら尚更お前が居てやらなきゃダメだろ!! ていうか妹居たんだなお前!!」

「フフ、やかましい人間、嫌いじゃ、ないわ…でもお願い! 周りは…敵だらけだから……私を助けたら妹が助からないでしょ」



 破けて血が滲んだ手袋で俺の手を掴み一瞬微笑んだ。


 いい笑顔しやがって。



「いいか、お前は笑ってなきゃいけないタイプの人種だ。だからお前も助かるし妹も助ける。付いて来い!」



 俺が手を掴んで引っ張るとフレンズはそれを払いのけた。



「おい、お前! …おい?」



 オオタカのフレンズはそれきり動かなくなった。



「おい…おい嘘だろおい!! 目を覚ませブス!! くたばれ馬鹿!! 起きろ強盗!!!!! 頼むッッ!!!!!! アホおおおおお!!!!!!」



 信じられない。やっと助けてあげられると思ったのにこの結果だ。



「ねえ、おねーちゃのおともだちなの?」「あなただれ?」



 服を引っ張られた方を振り返るとあいつと同じ格好の子供のフレンズが心配そうに立っていた。猟銃の集団にリンチされていたはずだがさすがフレンズ、何事もなかったかのように立っている。



「君たちは、あ、あ……あいつの、い、妹なのか?」

「そうだよ! 食べ物をくれるの!」「やさしいんだよ!」

「そうか。じゃ、じゃあ、安全なところに行こう、か…」



 その後すぐに暴動は鎮圧され、俺とオオタカキッズは保護された。


 機動隊の車に乗せられてどこかへ向かっていると、なんとフロントガラスに小学生ほどの女の子が二人張り付いているという謎の理由で車が止まった。



「あー、隊員さん。その子羽生えてます?」

「…生えてるね」

「ほら、お前ら。友達が来たぞ」



 結局その二人も一緒に車に乗ることになった。なんと全員オオタカのフレンズで、しかも全員あいつに保護されて一緒に暮らしていたらしい。


 4人もの育ち盛りのガキを食わせるためにコンビニ強盗を繰り返す女子高生か。


 くそ。


 くそっ!!!


 くそがっ!!!!!!!!!!!!



 機動隊の車の窓を殴っていたら流石に怒られたが落ち着けるわけがない。


 頭を抱えてうずくまっていると一緒に乗っていた機動隊員が俺の肩に手をおいた。



「君はあのオオタカのフレンズが気になるのか」

「救えなかった。食わせるために盗みをやっていたなんて知らなかった。俺はコンビニでバイトしてて……それで……」

「もういいんだ、今はあの子供たちの面倒を見てやるんだ。まだ希望はある。フレンズの再生能力は恐ろしいらしいからな」

「…はい」



「なあ、お前ら」

「なぁに?」「なに?」「……」「…おねーちゃ、どこなの…」



 俺は何も言ってやれず、四人を強引に抱き寄せてそのまま抱き寄せた。結局目的地の病院につくまでずっと抱きしめ続けていた。


 __________



 病院に連れていかれた後、すぐにオオタカのフレンズが眠る病室の前に連れていかれた。ドアの前の椅子には四人のオオタカキッズが並んで座っており、安心したように眠り込んでいた。



「この様子を見る限り大丈夫そうですが容態はどうなんですか? 大丈夫なんですか? 大丈夫なんですよね!?」

「わ、私が説明しますからお静かに! ここは病院ですよ」



 ミライと名乗る派手な髪色の女性が声をかけてきた。軽く事情を話してくれたのだが奴は体を構成するサンドスターを使って傷を直し、なんとか手術までこぎつけたらしい。しかもそのサンドスターを使いすぎたせいでフレンズになる前の鳥に戻りかけていることも。



「そこら辺上手く調整出来ないんですか。あ、あいつは、結局無事なんですか!?」


「彼女は狩猟用の散弾銃に撃たれていました。人なら既に亡くなっているレベルですがサンドスターを使ったおかげで生き延びることができた。もし自己再生を選ばなかったら昨夜のうちに彼女はフレンズとして亡くなっていたでしょう。つまり生き残ることを選んだ…ということです。」



 銃で撃たれるなど想像したくもない。あんな可愛い顔しといて相当な苦痛だったろうに。



「早く会わせてください」



 ミライと名乗る女性は何も言わずにドアを開けて…



「あ、あれ」



 そこは至って普通の病室。

 普通たちが所を挙げるとすれば窓ガラスが粉々に砕けているぐらいだ。


 …ん?


 布団を触ってみるとまだ暖かい。それに乾いていない血痕がシーツの端に広がっている。



「まずいです! 外は昨日の騒ぎを嗅ぎつけたマスコミばかりなので包帯をとってしまったオオタカさんはすぐに…すぐに…ああっ!!」


 ミライさんはその場で崩れ落ちて顔を手で覆った。


 しかしこの人は以上にフレンズに詳しい上にさっきから同情しまくっている。聞いてみるとどうやらフレンズを一箇所に集めて暮らさせるジャパリパークプロジェクトを進めている研究員の一人らしい。



「あなたを信じているからこそこのことを話しました。……もうオオタカさんは手遅れです。だからこそこの事件が落ち着いたr

「手遅れ!!?? この野郎よくもっ!!!!」

「今情報が入って…怪物が出たんです!! 私の部下はここにいる人以外全員襲われて意識不明の重体で見つかりました…マスコミ達もです…」



 ミライさんに襲いかかろうとしたのを研究員と医師に止められて居た俺は今の言葉を聞いてようやく冷静さが戻った。


 怪物……昔なら信じなかったが動物の女の子が出てきた今は信じてしまえる。



「私達はセルリアンと呼んでいます。形や色は様々ですが鉱物のような質感と大きく目立つ眼球のような器官があるのですぐ分かると思います。更に彼らはにフレンズさんを襲うことが知られています。

 良いですか! 彼らに一瞬でも触れただけで意識を奪われます! 目覚めても名前すら思い出せず言葉も喋れない。


 私は残酷です! フレンズさんを見捨てたんです! 最悪の人間です!」



 部屋が静寂に包まれた。


 チャンス!!!!!!!



 俺はその瞬間医師達の制止を無視し窓を蹴破ると病院を飛び出した。


 



 _____________




 地面に降りてあたりを見回すと、そこは簡単に言えば地獄だった。

 カラフルな目玉の怪物が徘徊しあちこちから悲鳴や断末魔が聞こえてくる。もしこの中にオオタカの……タカの悲鳴が混ざっていたら…



「あなたならやると思っていました」



 少し遅れて飛び降りたミライさんが俺の後ろに着地した。



「見捨てるんじゃなかったんですか?」

「かわいいフレンズさんをどうして見捨てるんです? とにかくセルリアンに襲われた終わりですから早くオオタカさんを探しに行きましょう。それとお互い片方が襲われても助けないで進むこと。良いですね?」



 俺は親指だけ立てると姿勢を低くして駆け出した。

 周りを見るとタカ以外にも多くのフレンズが逃げ惑っている。ほとんどが遊び半分で逃げているが今は心配している暇はない。



『ずもも…ずもももも』



 セルリアン…独特な鳴き声のような音を出して目の前を通過していった。どうみてもフレンズのような生き物には見えず、例えるとすれば色のついた岩の塊のようだ。


 くそ…タカの顔が脳裏に浮かぶ。

 妹が待ってるのに一人だけくたばってたりしたら絶対に許さないからな。


 待ってろクソ強盗野郎め。




 ……ここで一つ、気づいたことがあった。

 建物の壁近くのセルリアンは目的もなくさまよっているように見えるが、病院から遠いセルリアンは皆同じ方向に向かって進んでいる。


 ーーセルリアンは優先的にフレンズを襲うーー


 ハハ、最高のピンチとチャンスが同時に来ていやがる。



 行くしかない、向こうの公園だ。


 __________________



 タカは、居た。

 セルリアン達が見つめる中、一人公園のジャングルジムの頂上で倒れていた。


 周りには目立つものはなく、ここに居るのは動けないタカ、のろいセルリアン達、そして俺だけ。



 "オオタカさん、居るじゃないですか"

 "ミライさん!?"

 "声が大きいですよ! まず私が囮になるのでその隙に助け出して下さい。ジャングルジムを一瞬で登ってオオタカさんと一緒に逃げるのはあなたにしか出来ない。行きますよ?"

 "どうかご無事で…! ではお願いします"



 ミライさんが俺と反対方向に走り出した。一部のセルリアンたちはそれに気づいたがタカを囲む群れは動かない。



「セルリアンさ~~んこっちですよ! こっちこっち! 鳥さんより人間のほうが絶対美味しいですよ!」



 なんて勇気。

 セルリアンの群れが動き出すとともに駆け出しジャングルジムを登っていく。体力には少し自信があるので一瞬で登りきった。



「お待たせしました、強盗さん」

「っぐ…ハァ……ああっぐ!? うぅ………」

「妹は無事だ! 口は聞けるか!? おい、しっかりしろ!」

「……ダメ」



 タカは口がきけないほどに弱っていた。逃げ出したときに包帯を取ったせいで傷口が開いただろうし昨日のダメージがほぼそのままだ。



『おい馬鹿共!! 命が惜しかったら早く車に乗れ!!』



 おお、なんと救急車がサイレンを鳴らしながら公園に突っ込んできた。道中セルリアンを轢き潰しながら走って来たのが目に見えて分かった。


 あの車よく見るとライトの部分が目玉になって、白い部分を黒いもやもやがどんどんと侵食している。



『おい、そこの男! もう時間はないんだ、乗るか乗らないか決めろ! ミライは早く乗れ!!』

「ま、まずい!! 車がセルリアンに侵食されてます! ミライさんは車に乗って早く逃げて下さい!!」


『おい、足元に気をつけろ!!』



 気がつくと俺の右膝より下を青色のセルリアンが飲み込んでいた。

 ダメだ、力が抜ける。それに精神攻撃もされているようだ。



「タカには…近づかせねえ!」



 なんとかセルリアンを蹴落としたが体力を吸われて?タカを背負って逃げる気力は残っていなかった。セルリアン…聞いていたより厄介だ。


 ミライさんが強引に救急車に詰め込まれて連れて行かれるのを尻目に、俺はジャングルジムの上で力尽きた。



 ____________



「お…きて……」

「うおっ!? ああなんだ、タカか」



 あれからだいぶ時間が立ったようだが相変わらずセルリアンに囲まれていた。もう誰の助けも来ない。タカと公園で二人きりだ。



「い、いま……飛ぶ…」

「馬鹿無理すんな!」


 コンビニであった時は至近距離でテーザー銃を避けていたタカは今では簡単に押さえつけることができる。


 いくら頑丈でも額と口元から血を流している女の子に運ばせるなんて認められない。



「なん…で…助けに、来たの?」

「お前四人も妹居るんだろ? お前はそのために強盗を繰り返して人間に追い詰められた。更に今度はセルリアンだ。そんな女の子を放っておけるわけないんだよ」

「そう…でもあなただって……うっぐ…人間でしょ? 助けた後どうするの? 私達を捕まえる? それとも見せしめに命を奪うの? それじゃなかったらどうにかしてお金に変える?」



「助けたいんだよ、オオバカ!!!!!!!!!!!!」

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