第3話
深い森を抜け、ようやく村に着いた。そこは木造の家屋が環状に並んでいる円村だった。家に囲まれている中心部には池があり、その中には石像の上半身が突き出ていた。像を見ると、微笑みを浮かべた女性が、
「これはこの村の守り神である、女神ヘビナを
興味深げに眺めていた宙太たちにミイはそう説明した。
「私たちの村はこの女神様の名前を取ってヘビーン村というんですよ」
そう言い終わると、ミイは胸の前で両手を絡ませ目を閉じ始めた。
「何してるの?」
猛が怪訝そうに尋ねる。
「祈りを捧げているんです。皆さんの世界でも神さまにそうしませんか?」
その口調はまるで皆さんはご飯を食べますかと当たり前のことを訊いているようだった。
「いや、突然神って言われても」
猛と辰彦は戸惑いを隠せない。これは新手の勧誘かと思うほどだった。
しかし、宙太だけは平然としていた。彼はこの世界にも宗教があると、自分のいた世界との共通点を照らし合わせていた。
「さて、お祈りも済ませましたし、これから皆さんを村長さんに会いに行かせますね」
そう言ってミイは、こっちです、と言い歩き出した。
「その人のところに行けば俺ら帰れんの」
と猛は訊いたがミイは少し困ったような顔をして、
「それは分かりません」
と言い先へ進み出した。三人も歩き始める。
村長の家は他の木造家屋とそう変わりない大きさだった。ただ1つ違うのは、家の隣りに
ミイが呼び鈴を鳴らす。すると扉の中から小太りの中年男が現れた。
「おお、ミイ。どうしたんだ?」
「はい、実は
「なに!?」
ミイは後ろにいる三人の少年を紹介する。宙太たちは軽く頭を下げた。
「では、どうぞこちらへ」
村長は客人を家へ招き入れた。そして彼らは円卓を囲むソファーに座る。そして宙太たちはここに来たいきさつを説明した。
「なるほど、気が付いたらここにいたと。やはりあなたがたは遠客のようですね」
村長は一人納得したかのように頷く。
「で、帰る方法とかないんすか!?」
猛がそう言うと、村長はあからさまに困惑した表情を作った。それを察し、猛と辰彦は落胆する。
「おいマジどうすんだよ」
「このまま帰れないなんてことないよな」
うろたえる二人を尻目に、宙太は改めて家の中を眺める。天井には電灯があり、この部屋からかまどが見える。文明レベルはそう低くなさそうだ。
「おお、そういえばこの村には占い師がいましてな。彼女に聞けば何か分かるかもしれません」
「いや占いって……」
猛は村長の申し出に渋い顔をした。彼は占いといえば十二星座の運勢やらだと思っていたのだ。
「そうですね。私もそれがいいと思います。さっそく行きましょう」
ミイがそう言って腰を上げると、宙太も躊躇なくあとに続いた。残りの二人もしぶしぶそれにならう。
占い師の家は村長の家の近くにあった。ミイが呼び鈴を鳴らすと、家の中から「どうぞ」という大きな声が聞こえた。
「それじゃあ入りましょう」
ミイを先頭に宙太たちは中へと入る。そこにはまだ昼間だというのにやけに真っ暗な空間が広がっていた。わずかにものが見えるのは垂れ下がったランプの灯りのおかげだった。
そしてその薄暗い部屋の奥から人影が見え、ミイたちのほうへ近づいてくる。
「あら、ミイ。いらっしゃい。どうしたの?」
「お邪魔します」
家主は若い女だった。長い後ろ髪を結って垂らしている。そしてかなりの長身で、比較的背の高い猛とほとんど変わらなかった。
「紹介します。この村きっての占い師、カーラさんです」
「まあ占い師は私しかいないけどね。んで、彼らは何者?」
占い師は気だるそうな声を出して男三人を指差した。
「はい、実はこの方たちは遠客でして」
「えんきゃく?何それ?」
「ええ!?」
ミイは思わず身体をのけ反らす。
「ほら、私ってば占い以外のことはさっぱりじゃん?」
「もお……」
ミイはここに来た経緯を説明した。
「なるほどね、で私に占ってほしいと」
「お願いできますか?」
「ん、了解。帰り道が出るかは分からないけどやってみよう」
カーラはそう言って一行を奥の部屋へ手招きした。その部屋の中央では紫色の高台に置かれた水晶玉が灯りを反射し輝いていた。
宙太はそれを見てよくマンガなどでみる
「そいじゃ三人とも。この水晶玉の前に立って」
その指示に従う。すると占い師はイスに座り、目を閉じ、深呼吸し、ゆっくりと水晶をなで始めた。
何かの言葉をぶつぶつとつぶやくカーラを前にして宙太たちは固唾を呑んだ。
「はあ!」
途端、水晶玉が発光しだした。
「え、何この光!?」
予期せぬことだったらしく、カーラはうろたえる。光はますます強くなり、目も開けていられないほどになってきた。
「ごめん、いったん中止!」
――その必要はありません
「!」
どこからともなく聞こえてきた声に一同は驚く。しかし声の主の姿は見当たらない。
「誰!?」
――私はヘビナ
「ヘビナ様!」
さっきミイから教えてもらったこの村の守り神ヘビナだと、声はそう名乗った。
「すごい……ヘビナ様が降臨なさるなんて……」
ミイはそうつぶやき呆気にとられた。無論宙太、猛、辰彦もぽかんとしている。
――占い師よ、遠客の一人ひとりに水晶を持たせなさい
「は、はい」
名指しされカーラは少しうろたえたが、今は光らなくなった水晶玉を猛の手へ渡した。
「な、なんだってんだよ一体」
水晶はそれから辰彦へと渡される。
「か、神様ってホントにいたんだな」
そして辰彦は宙太の手のひらに玉を乗せた。
その瞬間、水晶は再び発光しだした。
――あなたでしたか
――あなたこそ、魔族に支配されしこの地上を救う
――勇者なのです
この場にいる誰もが息をのむ。宙太はその言葉が信じられなかった。
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