第6話

カグヨマを、長老は見たことがあるんですか?


囲炉裏に燃える火を跨ぎながら若い青年の一人が長老に質問をした。語り部の老人は、何か例えもないもので、普通に声をかけてあるものではない。青年は確かに子供の頃、この老人から何か声をかけてもらったが、その内容は思い出せない。たわいのない会話だったと思うが、今では声をかけるのもおもんばかれる。成長をして何か知るたびにものごとの調和が知れるのである。

彼は山の森林に住み着いて、泉の傍に小屋を建てて住み着いているだけの老人だか、一茶作法手脚の動作などいちるも淀みない風でいる。



齢七十を超える長老は応えた。この老人は、私が子供の頃から既に老人だった人だ。わたしはカグヨマを見たことはないが、彼が見ている。


すると青年は答えた。では彼は誰ですか?どこから来たのですが?


長老は辟易したよな態度をとりながら、そんなものは皆疑問に思うことさ、わたしも昔から何度もその質問を聞かれたが、ただ言えることは、彼はわたしが生まれるよりも前から、ここにいたのさ。


わたしやあなたたちがむしろ、君らは誰であって何で来たのか、どこから来たのかという質問に対して答えなければならないのではないか?


長老の言葉に青年はのどを詰まらせた。人は皆、自分を基準に置いて生きている。愛する伴侶や、子供が産まれるまでは。


あなたは何処から来て、いったい何時何のために母なる胎盤に宿りたどり着いたのか?


長老は諭したように呟いた。運命は悪い方へ意識すると悪い方へ向かう。しかし運命は良い方へ向かうと良い方へ向かう。


わたしらは感謝するために生まれた、それではいったい誰に?

わたしらは奴隷でもなんでもないことに感謝する。蔓は勝手に足を掴んで木に括りつけたりはしない。


「そんなことをされたら、まるでひょうたんじゃないか!」


一部で奇声が聴かれたが、そうではないのだそうではないのだと遮られた。


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