第4話

むかしこの土地にカグヨマという青年がいた。山から来たので、だれもその素性が知れなかった。今でこそ山には緑も水もあるが、その頃は荒れ果てた荒野で、打ち捨てられ、動物も植物もなかった。


カグヨマは見るからに若い身なりをしていたが、佇まいはまるで村の戦士のように整然としていた。なので誰も彼を若者と呼ぶものはなかった。例外で、村の外れで泥沼の横に住まいを持つ浮浪者、ドロ水を飲む女と揶揄されていた老婆だけが、カグヨマを若者もしくは、少年とも子供ともして扱った。


老婆は身寄りも資産もなく沼に頼って暮らしていたので世間では宿ナシババァとして村八分どころではなく、たまに捕らわれるタヌキの子供らと同様に扱われ、ようは一種の見世物であり近づいてはならないモノだった。


カグヨマはある日、夏至の日が高くのぼった暑い日、山から涼しげに降りてきたのだが、村の若者やら皆汗にまみれて上半身裸なものも多く、フッと山上から降りてきた風のように、白い半袖で群青のもんぺを着た若者を、はじめはもっととても若い童のように見えたという。

しかし、しっかりとした佇まい、冷静な語り口、または霊妙な雰囲気というものが、その辺りの場を収めようとしていた。

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