星護りコルドの憂鬱(2)



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 ルファの暮らす王国エナシスには『星読み』と呼ばれる称号がある。



 正式な名称は〈天文巡察官〉というのだが。



 エナシスは古くから天文学を重要視する国だった。



 天文学に精通する者は、この世界に起こりうる様々な事柄を予測できるようになるといわれ、気象予報や戦の勝敗、そして国の将来までもが、天体と深い関係をもつと伝えられていた。



 故に優れた学識と先見の明のある天文学者たちは、エナシスの国政においても、重要な役割を担っていた。



 王国には天体を調べ、研究する王立の施設【天文院】が、中央である王都ルナスに存在する。



 そこには天文を学ぶための学舎と、そこを卒院し星見師と呼ばれる職に就いた学者たちが、星図の研究などを行う部署[天域管理局]がある。



 そしてもう一つ、要請に応じて星占を行う機関【聖占館】があった。



 夜空の月星は、夜毎に変化している。



 春夏秋冬はもちろん、前年の夜空図と比較することで、新しく増えた星、消えた星。



 配置の変化や羅列の計測。



 輝きの純度等、星見師たち天文学者は、日々新しい夜空図を研究し、星図を毎月書き替え、更新しなければならなかった。



 その内容は、王都ルナスの地上で見る夜空だけに限らず、王国エナシスの全地域から見上げる夜空図でなければ意味がなかった。



 そのため、星見師は一定の期間、定められた地方での駐在任務に就くことになる。

 仕事内容は、その土地から見る夜空図から異常がないか観察し、星図を記録することなのだが。



『星読み』である天文巡察官は、内容が少し違う仕事だった。



 駐在任務が無い代わりに、地上に悪い影響や不可解な奇現象を起こす夜空図の調査。



 そして原因解明だった。



 星読みは、天文院を卒院しても誰もが就ける職ではない。



 天文院の学舎で、誰もが必ず一度は落ちると言われる難関の卒院試験に合格できれば、学者として星見師を名乗れるが、『天文巡星読み察官』という称号を得るには、卒院試験合格後、希望者だけが試みる儀式に臨み《月星の祝福》を得た者だけが星読みを名乗ることが出来るのだった。



 与えられる証として、額に星型の痣『星印』。



 そして学者が使う数式を当てはめなくても、星位置や光の計測、星巡りの予測等を読み解く、特殊な才能〈魔法力〉。



 卒院試験は何回でも受けられるが、《月星の祝福》を試すことが出来るのは生涯に一度だけ。



 学舎で、どんなに優秀な成績を残しても、月星の祝福を得られなければ、『天文巡察官読み』を名乗ることはできない。



 月星の祝福は、天が定めた奇跡の選定。



 夢が叶うことは奇跡に近いことなのに。


 ルファはその奇跡を手にいれた。



 奇跡が毎年起こることは無いので、星読みの人数は少ない。



 現在、エナシスに存在する星読みは十三人。


 そしてその十三人目がルファだった。


 それも六年ぶりの祝福者。


 ルファは去年の暮れ、初めての卒院試験で見事合格し、星見師となった。


 そして後日臨んだ《月星の祝福》で、星印と魔法力を得て『星読み』の称号を受位した。


 天文院史上初、最年少十五歳での快挙だった。


 けれどルファの誕生日として決められていた日が、暦表では十二番「華雪の月」しかも三十一日。一年最後の日だった。



 それは星読みを受位した二日後だったので、「十五歳での快挙」という余韻を味わうことなく、ルファは十六歳になってしまった。



 ルファとしては内心、複雑だった。


 十六年前、荒野に置き去りにされていた赤ん坊のルファは、星読みだったルセル・オリアーノに拾われ、育てられた。


 拾われた日がそのまま誕生日になったので、本当の誕生日が判らず、実のところ「最年少初の快挙」と言われるのは怪しいのだ。


 春か夏か秋のうちに十六になっていた可能性もある。


 十六で星読みになった者なら、過去には何人かいたという話は聞いている。


 快挙と騒がれることに、どこか居心地の悪さを感じていたので、誕生日を迎えたときは、正直少しホッとした気持ちもあった。



 そして年が明け、新しい年の始まりの日。



 王国では、月星の祝福者である星読みが選ばれた後、数日内に『星護り』という者を星占で決める習わしがあった。


 星護りとは、天文巡察官の仕事に同行しながら護衛をする役職である。


 天文院[聖占館]に所属している星占者の中でも、優れた占術を取得しているのが『聖占師』と呼ばれる者で、そこから更に聖占を極めたとされる老師衆が集い「星逢わせの大占」と呼ばれる聖占で、星護りは選ばれていた。


 新しい星読みには必ず新しい星護りが定められる。


 占われる星護りは軍に所属する者という決まりがあり、辞退は許されていない。


 天文巡察官(星読み)も、二年目からは星護りを経験者の中から指名できるのだが、新米の星読みに、その権限はない。


 たとえ相手が死神と呼ばれるような者でも、パートナーとして受け入れなければならないのだ。


 そしてつい昨日、大占でルファの星護りが決まり、今朝 天文院へ赴いたルファに相手の名が知らされた。


 近日中には新しい星護りに王都入りの要請と共に報せが届き、遅くても十日以内には彼と顔を合わせる場が設けられるだろう。


 蒼き死神、アルザーク・ジャスエン。



 ………どんな人だろう。


 噂だけで人を判断したくない。


 実際には会ってみないと判らないこともある。


 コルドは随分と気に入らない様子だったけど。


 夜空の月星が〈星逢わせの大占〉を通じて星護りに出逢わせてくれたのだ。



 早く会ってみたいな………。



 ルファの心に不安はなかった。





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