第二十四話

 月島姉妹の顔色はお世辞にも良いとはいえなかった。何かを恐れているような、或いは嫌悪に近いものがあった。

 真理は桐山と美紀との関係性を話題にしたのを最後に固く口を閉ざしてしまった。そんな妹に代わり、顔を強張らせながらも英理が話し出す。


「あれはまだ父が生きていた頃です。夜中に目が覚めた真理に付き添ってトイレに向かった帰りでした。桐山の部屋から明かりが見えて、好奇心で覗いてしまったんです。そうしたら父と桐山が……その……」

「乳繰り合ってた?」

 明け透けな御伽の言葉に英理は絶句する。だが、否定することはなかった。

「つまり、家政婦と深い仲であったと?」

 話が見えてきた。月島君枝を殺害したのは痴情の縺れによるものに違いない。そう確信した様子の土屋が険しい表情で問いかければ、彼女は深く溜息を吐いて頷いた。

「二人は男女の関係でした。それも私達が同居するよりずっと前から。母が気付いていたかどうかは分かりません。傷つけたくなくて私達も黙っていましたし、知っていたとしても、母なら私達を心配させまいと気丈に振る舞っていたでしょうから」

「その、実子の美紀さんはこのことを?」

 土屋は言い難そうに訊ねた。すると、忽ち冷たい表情になった英理は小馬鹿にするように鼻を鳴らす。


「当然知っていたでしょう。何といっても美紀は桐山の娘なんですもの」

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