第二十五話
土屋は目を見開いて固まる。耳にしたことを咄嗟には理解出来なかったようだ。
「王地美紀さんは、桐山早百合の娘だと仰るんですか?」
「ええ。父は前妻が生きていた頃から桐山と関係を持っていたようです。彼らの間でどんなやり取りがあったのかは分かりませんが、法的には前妻の子として手続きをしていると聞きました」
「聞いた?」
「桐山本人からです。父と桐山の関係に私達が気付いたのだと知った彼女は、わざと自分達の仲を見せ付けることがありました。行為中の声を聴かせてきたりも……」
途中から英理の声は消え入りそうなほど小さくなっていった。
思春期にそんな仕打ちを受けていたとすればトラウマになっていてもおかしくない。本人が直接手を出されていなかったとしても心に傷を付けたのだ。一種の性的虐待といえる。
二人が桐山を恐れ、嫌悪するのも当然である。土屋は気遣わしげに二人の様子を窺った。そんな同情の視線を煩わしそうにしながらも英理は話を続ける。
「父が亡くなってすぐに、母は桐山を解雇しました。背負わされた借金もあったので家政婦を雇い続ける余裕なんてありませんでしたし、これまでの態度を考えれば桐山を傍に置きたいと思えるはずがないですから」
その通りだ。桐山に拘る夫がいないのなら、家政婦でありながら雇い主の家族を支配しようとする異常な相手を雇う必要はない。
「桐山はあっさりと去りました。恐らく父が遺した多額の借金についても知っていたのでしょう。相続権についてもとやかく言ってくることはありませんでした」
「その時、美紀さんは?」
「一時的に桐山が連れて行きました。親戚を頼ると言っていましたが、きっと母子二人で暮らしていたのだと思います」
英理は忌々しげにマジックミラーの向こうを睨み付ける。
「けれど、母が父の会社を立て直し、以前より遥かに大きな貿易企業として成長した頃、桐山は美紀を連れて私達の前に姿を現しました。家族は一緒に暮らすべきだと悪びれもなく言って美紀を押し付けてきたんです」
集り目的に違いない。成功した人間に擦り寄ってくる自称親戚に近いものがある。
「厚かましくまた働きたいと言い出した桐山だけはどうにか追い返しましたが、折角軌道に乗った会社を潰したくなくて、母は余計なスキャンダルを避ける意味でも美紀を引き取ることに決めました」
ここまで来ると先が読める展開である。土屋は真剣に彼女の話に耳を傾けていたが、御伽は既に飽きたようにスマートフォンを弄っていた。
安藤に至っては最初から御伽しか目に入っておらず、話も聞いているのかいないのか判断が付かない。英理が長々と話している間も黙って御伽を見つめていただけなので、あまり期待しない方がいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます