第二十三話
怒りに肩を震わせていた英理は苦々しい顔で了承し、自身を落ち着かせるように大きく息を吐き出してから、重々しく口を開いた。
「桐山は父の……母が再婚した男の家に、昔から住み込みで働いていた家政婦でした」
目を見開いた土屋はすぐに、傍に控えていた芝へ向かって
指示を受けた芝は慌てて部屋を飛び出していった。それを横目で確認した御伽は何も言わず英理の話に耳を傾ける。
「前妻が亡くなってから家のことは全て桐山が行っていたみたいで、母が再婚して私達が暮らすようになっても、自室の模様替えすら自由にはさせてくれませんでした」
長年仕えていたことで既に自分の家のように思っていたのだろう。年月を掛けて整えてきた家具や調度品をあれこれ弄られたくないと考えたのかも知れない。
「昔の家から持ってきたものは全て倉庫行きになりました。幼い頃から使っていた愛着のあるぬいぐるみも、前の学校の友達から別れ際に貰った思い出のプレゼントも、お気に入りの洋服も全て……。横暴だと父に訴えかけましたが、桐山に任せておけばいいと言って取り合ってはくれなかった」
「好きなものを取り上げられ、桐山の趣味で全て整えられた部屋で生活する気はありませんでした。桐山が解雇されるまでの殆どを、私と姉は倉庫で暮らしていました。好きなように飾り付けて、二人だけの部屋に作り変えていたんです。秘密基地みたいで楽しかったけど、時々虚しく感じることもありました」
言葉を引き継いだ妹の手を握り、英理は辛そうに目を伏せる。
「母も不満に思っていたでしょうが、文句は言えなかったみたいです。父が何かと桐山を重宝していて、何を言ったところで聞く耳も持たないのは私達で実証済みでしたから」
話を聞く限り、不遇な扱いを受けていたのは美紀ではなく、寧ろ彼女達の方だ。これが事実であれば、伊吹が語った月島君枝を殺害した動機の信憑性は大きく変化する。
「桐山は美紀にだけは何も注文を付けることはありませんでした。最初は父の実子であるからだと思っていました。再婚相手の連れ子の私達と違って、父が心底愛する美紀にまで文句を言えば父から罰せられるからだと」
「でも、違った。桐山はただ美紀のことが可愛くて仕方がなかったんです」
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