第二十二話
けれど、月島姉妹は何だかんだと文句を言いながらもこうして来てくれた。
近所の噂話では意地悪な姉達として広まっていたが、人柄はそれほど悪くないのかも知れない。俗にいうツンデレだろうか。
「母を殺したのはあの女ね?」
当の英理は感情を抑え込むように表情を強張らせながら、窓の向こうを見つめた。
「家政婦の伊吹美紗子さんっす。ご存知っすよね?」
「ええ。一年くらい前に母が雇った人よ」
マジックミラーから顔を逸らした英理は眉を寄せながらも気丈な態度で頷いた。隣で悔しげに唇を噛み締めていた真理が姉の手をそっと握る。
「挨拶した時はいい人そうだったのよ。人を、それも母を殺すなんて……」
御伽もまた窓の向こうの伊吹を見据えながら問いかける。
「彼女とお会いしたのは一年前が初めてっすか?」
「そうよ」
英理の返答に、御伽は何も言わず振り返った。ちらっと視線を寄越した御伽に頷いて、安藤がタブレットを取り出す。
「ちょっと見て貰えますか」
そこには伊吹の写真が映っていた。月島姉妹は困惑したように顔を見合わせる。一緒になって覗き込んだ土屋も怪訝としながら片眉を上げた。
しかし、安藤が指でタップしながら操作すると、色調が変わり、人相が変化していった。画像処理によって化粧を落とした状態を予測しているのだ。
見る見るうちに顔付きが変わってゆく。大人しめのナチュラルメイクに思えていたものは、随分と厚いマスクだったらしい。現れた顔はまるで別人のものだった。
女性の普段の顔とスッピンとが異なることは別に珍しくもないが、特殊メイク並みの変貌を遂げれば誰でも驚く。男性である土屋や芝などは絶句して言葉も出ないようだ。
「これ……!」真理が声を上げた。
「かつてうちにいた家政婦よ!
蒼褪めた真理が恐れるように目を逸らす。だが、英理の方は今にも飛び出していきそうな鬼の形相でマジックミラーの向こうを睨み付けていた。
「あの女! また私達家族に近付いてきたのね!」
聞き捨てならない言葉に土屋が反応した。
「失礼だが、事情を説明して頂いても?」
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