第二十一話

 入室してきたのは、それぞれ車椅子に座った二人の女性だった。一人は芝に押され、続いて現れた二人目は別の男の介助を受けている。

「准ちゃん、ありがと」

「どう致しまして」

 白衣を脱いでいるが、彼は確かに安藤だ。御伽に礼を言われて、誰が見ても分かるくらい蕩けたように顔を綻ばせる。


 科捜研の人間が何故ここに、と視線で訴える土屋を気にも留めず、御伽は来客に挨拶した。

「さっきぶりっすね。わざわざ足を運んで貰ってすいません」

「まったくよ。後で迎えが行くから警視庁まで来いなんて、まるで人を犯罪者みたいに。失礼だわ」

 一人が苛立ち混じりに吐き捨てた。月島英理えり、被害者の長女だ。きつめの顔付きは母親によく似ている。

「言い過ぎよ、姉さん。でも、正直そこの男性が説明してくれなかったら、来るのを拒んでいたでしょうね」

 妹の方も窘めるどころか同調している。どう考えても嫌味だった。

 御伽に振り回されたのなら物申したくなるのも分からなくもないが、姉妹揃って随分と刺々しい。

 次女の真理まりもまた、英理よりは控えめだが、気の強そうな雰囲気をしている。容姿が整っているからこそ、その勝ち気さも際立った。


 彼女達の突然の訪問には、やはり御伽が関わっているようだ。

「御伽、説明しろ」

 厳しい声で土屋が命じると、流石にこれ以上はのらりくらりとかわすことが出来なくなったようで、御伽は仕方なさそうに口を開いた。

「金森さんと一緒にお二人の住居に訪問した時、こっそり警視庁まで来てくれるように頼んだんすよ」

 そして安藤にちらりと視線を向ける。

「で、車椅子のお二人を運ぶのはいつものセダンじゃ無理っすから、准ちゃんに迎えに行って貰いました」

 とはいえ、捜査中にスマートフォンを弄っていた訳ではない。打ち合わせていただけである。


 つまり、だ。科捜研から離れる間際、安藤に向かって「宜しく」と言ったのはこの件を意味していたということになる。

 間違いなく金森は気付いていない。知っていれば文句の一つや二つはこぼしていたはずだ。

 いや、そもそもあの短い挨拶にそんな意味が含まれていたなど、普通ならば誰も思い付きもしないだろう。

 安藤の理解力が桁外れているのか、それとも二人が周りには察知出来ないレベルで通じ合っているだけなのか。実際のところは不明だが、振り回される側としては勘弁して欲しい状況であるに違いない。

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