第十九話

 交流のあるミラークイーンの社長が犯人という線もあるが、可能性としては限りなく低い。何故ならば、相手がいるのは海外だからだ。


 月島グループの社長宅に遺体が発見されたと聞き、御伽はまず親友であると世間的に公表しているミラークイーンの社長に目をつけた。事件に何らかの関わりがあるのではないかと考えたのだ。そして真っ先に彼女を調べ上げた。

 すると、仕事の関係でニューヨークに滞在している様子がSNSで報告されていたのである。観光も満喫しているようで、リアルタイムで写真が更新されていた。

 物理的な問題として彼女に犯行は難しい。であるならば、やはり身近な人間に目を向けるべきだ。


「准ちゃん、助かったよ。あと色々宜しく」

「ん。了解」

 コツン、と拳を合わせた二人に、またもや金森が何ともいえない顔をする。

 同年代というのならまだ分からなくもないが、一回り近くは年の離れた相手と親友のようにじゃれ合っている姿というのは、どうにも違和感を持たずにはいられない。

 ここであれこれと詮索しないのは金森の善意だ。男女の関係に首を突っ込んでも碌なことがないと職業柄もあって理解しているからである。

 それに、訊ねたところで御伽から軽くあしらわれるのも目に見えていた。最初から黙っている方が利口である。彼女の扱いを少しずつ学習してきた金森は自分の中に浮かんだ疑問を押し込んだ。

「またね、栞ちゃん。お疲れ」

 笑顔で手を振る安藤に見送られ、御伽と金森は研究所を後にした。


 その後、御伽達二人は事情聴取を行うていで家政婦の住居まで向かい、携帯用の指紋認証機器で照合を試みた。もちろん月島君枝の娘二人の下にも訪問し、同様にして指紋認証を頼んだ。

 結果として一致したのは家政婦のものだった。任意同行を頼むと、抵抗するそぶりは一切見せず、落ち着いて了承した。

 現時点では令状がないので逮捕ではなく任意同行という形を取っている。そのためだろうか。家政婦には焦りがない。何処となく安堵しているようにも思える。

 金森は訝しんだが、変わらず感情の読めない目をした御伽は冷静に彼女の顔を見つめていた。

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