第十八話
ということは、だ。現場に到着した時点で彼女には事件の大まかな内容が見えていたことになる。真っ先にマニキュアを調べたのもその推理に基づいているに違いない。
「お前な! 分かってんなら最初から言えよ!」
「はぁ……すいません。金森さんも理解しているものと思ってました」
御伽はやる気のない声で返す。反省の色は全くない。
「え、じゃあ、あれっすか。まさか意味も分からずここにいる感じっすか」
「んな訳がねぇだろ! それくらい分かっとるわ!」
「あ、ですよね。良かった。本当に後をついて来るだけだったのかと思っちゃいましたよ」
歯に衣着せぬ性分を理由にしたとしても、先輩に向かってあまりにも失礼だ。流石に目を瞑るにも限度があった。
先輩らしく叱り付けようと口を開いた金森だが、次に発せられた言葉で我に返った。
「まあ、取り敢えず指紋の検出が出来たんで、容疑者に話を聞きに行きますか」
「ちょっと待て。容疑者って、目星は付いてんのか?」
金森の問いに御伽は目を瞬いた。それからまるで病人を心配するように顔を覗き込む。
「金森さん、猛暑のせいで頭やられました?」
「どういう意味だ!?」
目を吊り上げる金森を無視して、御伽は分かりやすく噛み砕くようにしながら話を続ける。
「現場には争った形跡がない。つまり、月島君枝は不意を突かれて殺されたということっす。それには相手に対して油断していなければなりません」
東京から大阪間の距離という物理的な問題だけでなく、確執のある王地美紀では不可能だ。月島君枝は警戒して隙を見せることはない。
彼女に警戒心を持たせずに近付ける人物は限られている。金森はハッとして口にした。
「犯行が可能なのは、実の娘二人と……」
「第一発見者である家政婦っす」
相変わらず抑揚のない声ではあったが、普段なら表情の殆ど動かない御伽が僅かに笑ったような気配がした。
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