第十五話
意味が分からない、というように金森は眉を潜めた。
「つまり、何だ? 発売日より前から手に入れていた試作品だから他殺の裏付けにはならんと?」
「いや、そもそも発売日がどうとか関係ないんすよね」
御伽の表情は相変わらずで、欠伸でも溢しそうなほど緊張感がなかった。真剣に聞いているのが馬鹿らしく思える態度だ。
「ぶっちゃけ問題はそこじゃないんす。必要なのはマニキュアの種類なんで。領収書は商品を特定するのに役立てば十分なんすよ」
彼女は
「
それだけで理解した彼は軽く頷き、書類を改めて金森に渡した。
「実は、ご遺体の爪には別のマニキュアの成分が検出されました」
「別の?」金森は訝しげに書類を見下ろす。
「彼女の爪にはマニキュアが二重に塗られていたんです」
成分についてはやはり理解が追い付かない様子の金森だが、確かに異なる製品番号が記されていることに気付いたようだ。しかし、閃きとは程遠い顔だ。
「よく分からんのだが、重ねて塗られていたら問題なのか? 最近は爪に絵を描いたりするんだろ?」
「金森さんにしては冴えてますね」
御伽はそう言って再びスマートフォンを金森に向けて突き出した。
「さっきのSNSの写真です。よく見て貰えますか」
金森は目を凝らして写真を見つめた。困惑している彼の様子から考えるに、特に変わったところは見付けられなかったようだ。
「あ、そか」
不意に呟いた御伽が画面をタップした後、二本の指でピンチアウトして拡大すると、月島君枝の手元が拡大される。
爪に模様が描かれていた。しかし、ごちゃごちゃと下品に塗りたくったものではない。然り気ない彩りを付けた魅力ある装飾だ。
「月島君枝は普段ネイルアートを施していたみたいっす。サロンに行くんじゃなくて自分で飾り付けたものを自慢するのが趣味だったようで、週一ペースでSNSにも投稿されています」
御伽が画面をスクロールしていくと、いくつか装飾された爪の写真が映し出された。完成までの流れを録画した動画もある。
「彼女はネイルに拘りがあった。SNSでは当日に新しいデザインに塗り替えてます。譲られた新作の宣伝もあったんでしょうね。なのに、遺体で発見された彼女の爪は、シンプルに赤く塗られていただけでした」
御伽の淡々とした声が語る。どうやら遺体の爪を確認した時点で違和感を抱いていたらしい。彼女に対して土屋が「鼻が利く」と言ったのはそういうところだ。
「マニキュアは普通、頻繁に落としたり塗ったりするものじゃないんす。それに、彼女みたいに拘りがあるなら、上から塗り潰すなんて雑なこと絶対にやりません」
「それじゃあ……」
核心に迫ったのが分かり、金森はごくりと唾を飲み込んだ。
「本人が塗ったものじゃないってことっすね」
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