第十四話
「まず、ご遺体がつけていたマニキュアですが、一致したのはこの製品です」
御伽が現場でいくつか選んだうちの一つを安藤が指し示した。深いワインレッド色のそれは、ボトル越しに見ても落ち着いた色合いをしているのが分かる。
「これ、ミラークイーン社の新作っすよ。発売は八月八日でした」
「よく知ってんだな」金森は感心した顔をした。
普段の御伽を見る限り、年頃の女性にしてはあまりお洒落に気を遣っているようには思えない。そんな彼女がコスメ商品に詳しいのが意外だったのだろう。
「結構頻繁にCMで流れてますから」
御伽は実際に興味なさそうな表情で答えた。最低限の身なりを整えるくらいの常識はあるが、その印象通り必要以上に着飾るのは好きではないようだ。
「ん? 待てよ。八月八日ってことは月島君枝が死亡した当日じゃねぇか」
「そうっすね」
「買ったばかりの新商品をわざわざ身につけて自殺するとは考えにくい。ということは、やはりこのまま他殺の線で捜査に当たるべきだな」
金森は険しい顔で再確認する。
「ところが、このマニキュアの領収書は彼女の持ち物から見付かっていません」
やる気を漲らせる金森であったが、続いて告げられた安藤の静かな声に勢いを削がれた。
「あ? どういうことだ?」
困惑する金森に気付いて、安藤はタブレットを開いて写真を見せる。
鑑識官が証拠品として撮影した財布と数枚のレシートだ。横にスライドして写真を切り替え、領収書の内容も一枚ずつ確認出来るようにした。
確かにマニキュアを購入した痕跡がない。一週間も前のレシートがあるのに当日のものが残っていないのは不自然だ。
つまり、月島君枝にはマニキュアを購入した履歴はない、ということになる。
「実際の商品を調べたらボトルの製品番号に違いがありました。ご遺体が所持していた商品の番号は試作品を示すものですね。生前ミラークイーンの社長と交流があったようなので、事前に試作品を譲られたのでしょう」
「は?」
目を見開いた金森に向かって、今度は御伽が何も言わず懐から取り出したスマートフォンの画面を翳す。
そこには、同年代くらいの美女とツーショットでポーズを取る月島君枝が写っていた。彼女がプライベートで利用しているSNSに投稿されたものである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます