第十三話

 警視庁本部、科学捜査研究所。通称『科捜研』と呼ばれる研究施設に足を踏み入れた御伽は、早々に歓迎の言葉を掛けられた。


「待ってたよー、栞ちゃん」

 白衣を羽織った四十代くらいの男性が笑顔で出迎えてくる。眉が太く、一度見たら忘れられない印象的な顔付きで、何ともいえない独特な雰囲気を放っていた。

 胸に貼られた名札には“安藤あんどう准弥じゅんや”とある。驚くことに所長であるらしい。


 彼が片手を挙げたのを合図に、御伽はアメリカ映画で見るようなハンドシェイクを繰り広げた。

 二人はまるで鏡合わせのように立ち、パン、パパン、パン、と絶妙なコンビネーションで手を打ち鳴らす。素晴らしいシンクロ率だ。

 最後に胸をぶつけ合い、互いにポーズを決める二人の姿があった。後ろから着いてきていた金森はそれを見て立ち尽くす。


「は? え、何だ今の?」

 しかし、残念ながら彼の疑問には誰も答えてくれなかった。科捜研の職員はそちらに見向きもせずに各々作業をしている。

 御伽に至っては最初から金森を放置し、安藤に本題を振った。


「で、結果が出たって話だけど」

「ああ、これだよ」

 分析結果を記した書類を御伽に差し出す。それを読んだ彼女は納得した顔で頷いた。

「何かあったのか?」

「まあ、予想通りって感じっす」

 金森の問いに御伽は淡々と答え、書類を渡した。だが、受け取っても金森には何が書いてあるのか理解出来ないらしい。混乱気味の彼を見て安藤が噴き出した。

「栞ちゃん、分析結果の書類を突き出されても大抵の警察官は読めないよ」

「マジっすか」御伽は僅かに目を丸くした。

 彼女には珍しく表情に大きな変化を見せたが、金森は気付く様子はなかった。馬鹿にされたと思ってか、その顔には不満を滲ませている。


「いいねぇ。天然な栞ちゃんマジ可愛い」

 信じられないことを口走った安藤をギョッとして金森は見つめた。今の会話の何処に可愛いと称す要素があったというのか。

 そんな金森の驚愕など意に介さず、安藤はスマートフォンで御伽を写真に収める。御伽は嫌がるどころか平然としているので、こんな行動も今に始まったことではないのだろう。

 この二人の関係性がさっぱり分からない。金森は御伽と安藤を交互に見て居心地悪そうにした。


「さて、金森さんにも分かりやすく説明させて頂きますね」

 何枚か撮影して満足した安藤は、何事もなかったかのように分析結果の説明を始めた。

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