第八話

 王地金融の御曹司はご婦人達が話していた通り、確かに煌びやかな容姿をしていた。

 金髪碧眼の貴公子といえばいいだろうか。母方に西洋人の血が入っているそうで、色素も含め、日本人離れした顔立ちをしていた。柔和な表情も相まって女性の理想の王子様像を窺わせる。これならば周囲から騒がれるのも分かる。


 隣に並ぶのは、彼の妻・美紀だ。旧姓は月島、つまり御伽が目的としてやってきた人物である。

 随分と儚げな印象の女性だった。肉感的な継母と異なり、スレンダーなモデル体型をしている。肌は透き通るように白く、伏し目がちの顔は何処か愁いを帯びていて、見る者の庇護欲を誘う。

 月島君枝とはまた違った意味で男が放っておかない美女だ。


「暑い中お疲れ様です。大したお構いは出来ませんが、どうぞお寛ぎ下さい」

 突然の訪問に嫌な顔をすることもなく、彼らは御伽達に対してとても丁寧に対応した。応接室に案内された二人は、ソファに腰掛け、ひんやりと冷えた緑茶を頂くことになった。


 お茶を用意した美紀がテーブルに三人分の湯飲みを並べる。御伽と金森、そして王地幸成ゆきなりの分だ。美紀は夫の横に並ぶのではなく、一歩後ろに控える。それが王地夫人としての振る舞い方なのだろう。

 如何にも大和撫子といった美紀の姿に、金森はうっとりとした顔で見惚れている。それを一瞥することもなく放置し、御伽は本題を切り出した。

「早速っすが、月島君枝さんのことでお話を伺いたいと思います。状況の方は……」

「理解しています。警察の方からご連絡を頂く前に、速報でニュースが流れていましたから」

 答えたのは王地だった。辛そうな表情で美紀を振り返る。


「驚きました。まさかお義母さんが亡くなるなんて。ニュースを見た美紀はショックで一度気を失ったんです。美紀、辛いなら休んでいてもいいんだよ」

「いいえ、幸成さん。お母さんが亡くなったなんて信じられない気持ちだけど、何が起きたのか知るべきだわ。私にはその権利があるの」

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