第六話

 月島君枝を恨んでいる、という点では義理の娘が最も有力そうだ。

「その美紀さんは、今?」


「高校を卒業してすぐに家を出て結婚したわ。王地おうじ金融企業の御曹司とね」

 それから彼女達は上擦った声で話し出す。

「容姿端麗で、文武両道、温厚な性格で、とても誠実な方らしいわ。絵本の中から飛び出した王子様みたいだって、高校でも人気だったそうよ。そんな男を捕まえるなんて美紀ちゃんもやるわね」

「召使の生活から一流企業の次期社長夫人なんて凄い転身劇じゃない? こういうのをシンデレラ・ストーリーっていうのかしら」

 羨むような彼女達の言葉を聞き流しながら、御伽は淡々とした動作でスマートフォンから“王地金融”と検索する。ヒットした件数は軽く六百件を超えた。

 検索結果をスクロールする御伽は視線を液晶画面に落としたまま「あ、ども。助かりました」と会釈だけしてご婦人達に背を向けた。


 呆気に取られる彼女達を気にする素振りは一切ない。御伽の頭は既に次のターゲットに切り替わっていたのだ。

 早速目的の場所へ向かおうとした御伽だったが、後ろから襟を掴まれ邪魔をされた。何なのだ、と振り返ると、鬼の形相をした金森がいた。

「お前、本気で俺を撒けると思ってんのか? ふらふらしてねぇで持ち場に戻れ!」

 適当にあしらって逃げてきたのを根に持っているのかも知れない。

 唾を飛ばす勢いで怒鳴られるが、御伽の表情は相変わらずぼんやりしていた。そして、ゆるい動きで野次馬の方を指差す。

「いいんすか、撮られてますけど?」

「え、わっ」

 金森は慌てて掴んでいた襟を離した。野次馬の多くがスマートフォンのカメラを二人に向け、何人かが「やべえ、暴力警官だ」や「パワハラだ、パワハラ」と面白がって呟いている。

 御伽は蒼褪める金森をちらっと見て、肩を竦めた。

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