第四話

 部屋を出た途端に金森に捕まり、再びしつこく絡まれたが、適当に聞き流して御伽は屋敷を後にした。

 野次馬は未だに減る様子はない。有名な女社長が亡くなったと聞き付けてマスコミも集まり始めている。

 ガヤガヤと喧騒を立てる人混みを抜けようとした時、聞こえてきた囁き声に御伽は足を止めた。


「信じられないわ。月島さんが亡くなるなんて」

「あら。ついに、って感じよね?」

「ご主人が亡くなってから随分と会社を好き勝手にしてらしたみたいだし、あちこちから恨みも買っていたんじゃないかしら」

「じゃあ、やっぱり殺されたの?」

「あの月島さんが自殺なんてする訳ないじゃない。腹立たしいくらい会社も上手くいってるのに、どうして死ぬ必要があるのよ」

 近所のご夫人達が噂話をしているようだ。御伽は姦しい集団の元にそっと忍び寄った。


「ちょっといいすか」

 御伽が声をかけると、彼女達は悲鳴を上げて飛び上がった。

「な、何よ!?」

「急に話しかけたら吃驚するでしょ!」

 甲高い声で怒り出した彼女達に怯むことなく御伽は警察手帳を見せる。

「いくつか聞きたいんすけど」


「え、あ、刑事さん!?」

「やだ、ごめんなさい。何でも聞いて下さいな」

 相手が警察の人間だと知って動揺したのは彼女達の方だった。先程の剣幕が嘘のように、笑顔で取り繕って質問に応じる姿勢を見せる。


「月島君枝さんが他殺であると確信してましたよね? 根拠は?」

 御伽の問いに彼女達は揃って顔を見合わせた。

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