第二話
「来たか。遅いぞ、御伽」
玄関に足を踏み入れると、強面の刑事が渋い顔で出迎えた。
髪を角刈りにし、健康的な日焼けした肌、そしてがっしりとした体躯は、如何にも体育会系といえる。見るだけで暑苦しい。
「連絡入れてから何分経つと思ってんだ。キャリアだからって舐めてっと承知しねぇぞ。シャキッとしろシャキッと」
彼が声を張り上げた。凄まじい熱気に室内の温度が二度くらい上昇したような錯覚を与える。周囲にいた鑑識官が迷惑そうな視線を向けてきた。
「はぁ……すいません……」
しかし、御伽の表情は変わらない。ぼんやりした目が相手を素通りして部屋の奥を覗いている。
「で、ご遺体は?」
ひくり、と彼の頬が引き攣った。舐め腐った態度に青筋が立つ。
「お前なぁ……!」
「あー! ダメダメ! ダメだよ、
怒鳴り付けようと口を開きかけたところで邪魔が入った。
「
「パワハラとか止めて! 市民の目があるんだから!」
手持ちのハンカチで汗を拭きながらやってきたのは年配の男性だった。細身で、髪の毛が薄く、如何にも気弱そうなタイプである。
「大袈裟ですよ。俺はただこいつにちゃんとした教育を――」
「だから、そういうの今の時代は拙いんだって。怒鳴り声なんか外に聞こえちゃったらどうするんだよ。面白半分に録画されて、昼にはもう日本中に拡散ってことになりかねない」
蒼褪めた芝は、ますます噴き出す汗を懸命に拭う。
「ま、まさかそんな……」
「情報化社会を甘く見過ぎだよ。君はパワハラ警官として有名になりたいのかい?」
「い、嫌ですよ、そんなの!」金森は勢い良く首を振った。
「だよね! 僕だって君が汚名を着せられて辞職に追いやられていく様を傍で見なくちゃならないなんて嫌だよ。辛いだろうけど、時には理不尽なこともぐっと堪えないと」
「芝さん……!」
感激する金森の背を慈愛の籠った眼差しで芝が優しく撫でる。麗しい友情、或いは同僚愛といったところだろうか。だが、どうにも暑苦しい。
目の前で繰り広げられる茶番劇を暫く眺めていた御伽は、白けた顔でその場を通り過ぎた。
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