第53話

「おひいさん!」


「セ、シル」


アイリーンのころよりも、半分ほど短くなった髪の毛を揺らして後ろを向くと、飛び込んできたセシルにきつく抱きしめられた。


「ああ、よかった。よかった、あ、主さんと、ルイスの、ことを、信じて……」


しゃくりあげながら言葉を紡ぐセシル。何かをこらえるような声に、そっと抱きしめ返すと彼は頭を私の首筋に押し付けた。


「くすぐったいよ、セシル」


「俺を、置いて逝ったおひいさんのいうことは、聞かない」


「それは……、ごめんなさい……」


「おひいさんの、世界に、俺が必要なかったんだろう?」


「ちがう!」


「じゃあ、なんで。なんで、俺に何も言わなかったんだ! 俺がどんな、どんな思いで……」


「私は、あなたをいつか置いて逝くかもしれないから。だから、言えなかった……。あなたの帰る場所になると言ったのに」


私は気が付けばセシルにすべてを話していた。言うつもりなんてさらさらなかったことも全部、喋っていた。


「おひいさんは、馬鹿だ。大馬鹿だ」


「ごめんなさい、セシル」


「もう二度と、そんなことしないって、約束しろ。絶対だからな」


「……」


「お、ひ、い、さ、ん?」


「……、わかったわ」


「ん」


一つ、大きくうなずいたセシルの顔が、とても近くに寄ってきたかと思うと、私の額にキスをした。急なそれに驚きすぎて、声が出ない。


「な、あ、え?」


「はは、おひいさん驚いてるね。でもさ、おひいさん。俺のこと一生側においてくれるって言ったでしょ? 愛してくれるって言ったでしょ? 俺だって、アンタのこと愛してるんだからな」


「は?」


さっきの泣いていた表情とは違い、今度ははにかむセシルに頭の回転が追い付かない。何を言っているのかも理解ができない。ティア、と私を呼ぶ声。愛しているとまっすぐに伝えられるその好意がくすぐったくて。


「はーい。邪魔だってわかってるけど、邪魔するねー」


「邪魔だってわかってんなら帰れ、ルイス」


「だってセシルだけずるくない? お前だけのセレスティア様じゃないし、俺とレイラにとっても愛するお姫様だし」


 芝生に座って私の膝に頭を預けているセシルの後ろから今度はルイスがやってきた。ルイスは全部知っていた、というよりおそらく計画していたのだろう。ルイスとお父さまで計画したこれは、私へのサプライズだ。


「つーか、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてしまえ」


「ハッ! 恋路ィ? お前のそれが恋なんて可愛らしいものかよ」


「うるさい、恋路は恋路だ」


「はーん?」


「お二方とも、喧嘩をするのは後にしてもらえますか? セレスティア様のお身体に障りますので」


急な乱入に、セシルとルイスが口論を始めると、呆れたような声がまた後方からして、レイラがやってきた。レイラに怒られた二人は口論を辞めはしたが、火花を散らしあっている。


「セレスティア様、これからはセレスティア様と私たち三人で、このお屋敷で暮らしていくことになります」


「そうなのね。改めて、よろしくね、みんな」


四人での新たな暮らしが始まると思うと、それがすごく嬉しくて私も心の底から笑った。こんな風に笑うのは、きっと初めてだ。

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