第48話

嗚咽を漏らすセシルを、さらにきつく抱きしめれば、セシルは恐る恐ると言った感じで私の背に腕を回した。本来であれば王女としてこのような振る舞いは許されない。こんなことが知られれば、セシルは立場を失うし、私だって信用を落とす。


それでも、私は抱きしめてあげたかった。男にしては細身だけれど、筋肉がしっかりとついていて、私よりも大きな身体をぎゅっと抱きしめる。セシルは身体を震わせながら泣いていた。


 私の心も痛かった。まるで幼子は母親に抱きついて泣いているような姿に、ずっとこの人は孤独だったのだと思い知らされる。


「おひいさん、ごめん」


「そういうときは、ありがとう、よ」


「ありがとう、おひいさん」


時間が経って、セシルは泣き止み、私たちは顔を合わせていた。真っ赤な鼻をすするセシルが謝るので、そういうときはありがとう、と言うのと言えば恥ずかしそうにセシルは笑って言った。


「俺のしたことは、これから先も許されなくていい。俺が暗殺者として人を殺していたことは許されないことだから。おひいさんの言う通り、過去はどんなことをしたって変えられない。でも未来は変えられる。俺は、アンタのためだけに生きていきたい。おひいさん、アンタは俺の生きる意味になってくれるか?」


「もちろんよ、セシル」


 セシルの生きる意味となる、私はこれから先、間違った行動はとらないようにしないといけない。それでも、彼が未来を良いものへ変えたいと願うのであれば、私はその手助けくらいはしたい。


「ところで、おひいさん。古書店で何を見つけたんだ?」


「ああ……、その、えっと。まあ、未来視に関する記述がある古書ね」


もう元気になったのか、いつも通りになったセシルは、私に何を見つけたのかを聞いた。その古書のことをあまり言いたくはなかったが、セシルなら言えると思い、正直に伝える。


「見つかったのか? 何か、未来視に関する情報が!」


「え、ええ」


思ったよりも食いついたセシルに、少し驚いたが、すぐに頭を切り替えて話をする。


「お店でざっと目を通しただけだから、詳しくはまだ読んでないけれど……」


一つ、未来視などの異能を持つ人間は魔法が使えないことが多い。なぜなら、その異能を使うのに魔力を使ってしまうから。特に未来視は何もしていなくとも、無意識下でその力を行使することがあるので、魔力消費が激しい。


二つ、夢で先の内容を見るのは未来視特有の力であること。


三つ、魔力消費が大きいがゆえに「眠り姫」と呼ばれる状態になること。眠り姫とは、魔力がだんだんと枯渇し、その状態で魔法や異能を行使することによって代償として命を削り、最終的に眠りながら死んでいく。眠ることが多くなれば、死期は近づく。


 三つめは、言わなかった。否、言えなかった。私は、セシルよりも年が下だけど、先に逝くかもしれないから。さっきあなたの帰る場所になると宣言して、さっさと自分は死ぬなんて、言えない。



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