第49話


「アイリーン様、お加減は……」


「大丈夫よ、レイラ。ありがとう」


最近、少し無理をしすぎたのか体調を悪くしてしまった。未来視の確証を得た私は、ついに父にその旨を伝えた。父は、もちろんそのことを知っていて、私が言い出すのを待っていてくれたらしい。


未来視を私が持っているということを、父も断定はできていなかったようで、持っているだろうという推測だけしていたらしい。それでも隠していたつもりのことがすべて、筒抜けというのは恥ずかしい。


「ご無理は、けしてなさらぬよう……」


「ええ、また何かあったら呼ぶわね」


「はい、アイリーン様」


 父と協議を重ねた結果、未来視を持っていることを公表したほうが良いだろうとのことから、公表することになった。公表に当たっては、父の側近数名を交えての協議も何度も行われ、どこからどこまでの情報を開示するのかなど、さまざまな状況をシミュレートし、いろいろな内容が話し合われた。


「おひいさん」


「セシル、仮にも女性の部屋にホイホイ来るものではないわ」


「だって、俺のおひいさんが倒れたって聞いて……」


「まあ、ちょっと根を詰めすぎただけ。大げさよ、セシル」


 結果、無理を押した影響で倒れるという、情けない状況になってしまったわけだ。それをセシルは大げさに心配しているようで、音もなく部屋に入ってきて、私が寝ているベッドにやってきた。


「おひいさん、俺は主様に忠誠を誓っているのと同時に、アンタにだって忠誠を誓っている。大事なもう一人の主が寝込んでいるのを心配しないわけがないだろ」


「セシル……」


「それに、アンタは俺の帰る場所だ。アンタに倒れられたら、困る……」


 セシルは自分の過去を受け入れ始め、それに伴って私の前では少し幼い反応を示すようになった。まるで母親に甘える子どものように。公共の場ではしっかりと大人な面を見せるのに対し、子どもな一面を私にだけ見せるので、ギャップに日々、萌え死ぬかと思う。


私の極厚猫かぶりを、いとも簡単に引きはがすセシルには、完敗だ。萌えの供給過多で、いつ人前で叫びだすかもわからないと、最近は冷や冷やしているくらいだから。


 さて、話は逸れたけれど、父や父の側近である宰相たちを交えての協議が連日行われ、その間に学院にも通い、なんてことをしていた。もちろん、空き時間には同時進行で複数の公務を行いつつ、隣国にプリメラ草をどう伝えるかなどを考えていた。


結局、プリメラ草が引き起こすかもしれない案件については、父から隣国へ伝えられることになり、それに関連して未来視を持っている王族として名が諸外国に広まることとなった。そのことに関して、協議に参加した多くの側近が難色を示し、私が外へ嫁ぐことになりかねない、諸外国に利用されるかもしれない、などの危険性を挙げた。


 側近たちが挙げた危険性も加味し、公表するかどうかの意見を聞かれた。正直に言えば、公表にはリスクがつきものだし、ある程度のことは覚悟していたつもりだった。だけど、実際に起こる可能性がある問題を、私よりもずっと政治や外交の仕事をしてきた父の側近たちの意見として聞いた時、怖かった。


もしかしたら、外に嫁がざるを得ない状況になるかもしれない。諸外国に、依頼と言う形で利用されるかもしれない。原因はわかっているのに、得体のしれない恐怖が私を襲い、すぐに父の問いに答えることはできなかった。

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