第47話
「今でも、覚えてるんだ。昨日まで一緒にいた子を、この手で殺したことを。突き刺した肉の感触も、痛い、やめてくれって叫ぶ声も何もかも!」
私に想像ができない苦しみ。それをセシルはずっと一人で抱え込んでいた。誰かを守るという、今までとは真逆のことをしながら、矛盾を抱えて生きていた。人を殺して生きていたという罪の意識、負い目、さまざまな負の感情を持っていた。
「ほんとうは、かあさんに、あいされてみたかったんだ……」
守ることをすると決めたのは、贖罪の意味もあったと、セシルは言う。そして、愛されてみたかったという言葉。セシルはお母さまに愛されて育ったわけじゃない。それどころか、捨てられてしまった。
セシルの出自に関しては、ゲームで触れられておらず、ただ暗殺者ということしかわからなかった。暗殺者として登場し、アイリーンによって間接、直接的に死んでしまう、悲しい人。
何も前知識なんか持っていなかったから、セシルがなぜ暗殺者になったのか、わからなかった。さらに言えば、なぜ、暗殺者を辞めて父に仕える密偵になったのかもわからない。
「私はあなたのお母さまの代わりにはなれないし、もしかしたらあなたの求めるものを渡せるかもわからない。でもね、私はあなたを愛しているし、あなたが一人だというのなら隣にずっといる。あなたに、帰る場所も居場所もないのなら、私があなたの帰る場所に、居場所になる」
セシルと今まで接してきて、印象は変わった。最初は怖くて仕方がなくて、味方かどうかもわからない状況で、二人になるときは緊張が取れなかった。
でも、こうしてセシルが私のことを考えてくれているのをだんだんと感じて、味方なのだと安心を覚え始めた。いつの間にか、私にとってセシルの側はとても心地いい場所になっていた。
私は、とてもずるい人間だ。セシルを愛と居場所で縛ろうとしている。逆に言えば、セシルが求めているものでしか、繋ぎ留められない。虚しいものだ、私自身はセシルが大切で側にいてほしい、こんなにも求めているのに、彼自身は違うものを求めている。
「おひい、さん……」
「うん」
「俺、ずっと、あいされてみたくて、家っていう、帰る場所がほしかった。でもギルドは家とは到底言えないし、人を、依頼で殺すたびに、たとえ悪人であったとしてもその人の家族や大切な人を苦しめているって思ってた。俺には、出迎えてくれる家族も、あいしてくれる人もいない。帰る場所も、どこかに落ち着けるような居場所も、見つからない」
セシルは、ただ私に抱きしめられるだけで自分からはけして、腕を動かさない。それでも話を続けた。
「セシル、今までよく頑張ったね。ううん、一言でそんなふうに片付けてはいけないくらい。あなたの帰る場所は、ここだよ。居場所も私の隣。世界中の誰もがあなたを必要ないと言っても、私はあなたを必要としている。たとえ、あなたがここを離れてどこかに行っても、それはずっと変わらないよ」
「おれ、は……」
「セシル、過去は変えられなくても、自分の行動次第で未来は変えられるのよ」
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