第42話
その夜、私は不思議な夢を見た。隣国で咲く花、プリメラ草がたくさん咲いていて、そこに私が眠っている。そんな不思議な内容。私は群生したプリメラ草に囲まれて眠っていて、それが何を指すのかわからないけれど、どこか重要なものだと感じてしまう。
「レイラ、今日は学院をお休みします」
「どこかお加減でも……?」
「大丈夫よ、少し調べたいことができたの」
「わかりました、そのように」
「お願いね」
その日、私は初めて公務以外で学院をお休みした。今までどんなことがあっても休むことはなかったのに、その日だけはどうしても休まなければならないと思ったのだ。
「たしか、あのプリメラ草の文献はこのあたりに置かれていたはず……」
王城図書館のほうで、朝食を食べてからずっと入り浸り、夢で見たプリメラ草を調べる。プリメラ草は隣国との国境に当たる森にしか生えない、特殊な草花。根っこだけでなく、葉や花も全て、扱いようによっては薬になる。しかし度が過ぎれば毒にもなる、そんな草花だ。
この花の花粉は水に溶けだすと毒になる。その毒を含んだ水を飲むと、次第に息ができなくなり、死に至る恐ろしいもの。そう、昔に勉強したことがある。
「あった……」
目当ての書物を見つけ、そのまま梯子を降りて机に向かう。持ってきていた紙とペンで重要な項目だと感じる部分だけを書き出し、前世でやっていたノートづくりのようにまとめる。
「そうか……、あの花粉の対処は同じ植物であるプリメラ草の根っこなのね……」
対処法としては別の息をしやすくする薬でもできないことはないが、やはり完治はしない。完治させるのであれば、根っこを煎じたものを飲ませなければならない。それもその根っこは一日半だけ天日干ししたものを使わなければならないという、作り方も大変面倒くさい。
「でも、あの花が夢で見たように群生しているのであれば、はやく対処しないと大変なことになる……」
国境に生えていると言っても、アイゼリア王国に被害が来るわけじゃない。あの付近を水源とする川はこちらにはないから。被害が出ると言えば、隣国のアルマリー帝国のほうだ。
皇太子レオンハルトと、少なからず関わりを持った身としては、他人事のようには思えない。同じ一国を治める一族の人間として、その国に住まう民を何の対策もなしに死なせたくはない。
「だけど、どうやってそれを伝えるか、よね……。現時点で何かきっかけがあれば……」
隣国に突然、プリメラ草がたくさん生えていますか、と聞いても怪しまれるし、国境付近のプリメラ草を早く対処しないと大変なことになりますよ、と言っても胡散臭い。ほしいと伝えたところで、薬としての希少価値が高いプリメラ草を、おいそれとは諸外国に出さないだろう。
そう、あの草花は希少価値が高いのだ。普段はめったに生えないと言われているほどに少なく、入手が困難であるからこそ、信憑性が薄い。
「せめて、周期さえわかれば……」
そもそも、あの夢が直近のことを指しているとは限らない。ならば、あの国で流行り病的なものが起こった時期だけでも知れたら、周期は割り出すことが可能だ。
「もう、これ以上の資料はここにはないし……。王立図書館なら、あるかもしれない。あとは学院か……。アレックスも詳しそうではあるけれど……、誰かにこの話をするのはリスキーだわ」
セシルに頼ろうかとも思ったが、端から人を頼っては意味がない。よって、却下。なんとかして、隣国にこの情報をやんわりと、でも内容は的確に伝えなければならない。
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