第41話
「いや、まさかここまで姫殿下が鋭いとは気づけませんでした。ダメですね、俺も仮にも情報専門クラスのトップの密偵なのに」
「お、俺……?」
今、アリエルさんは俺と言った。それもアリエルさんの時のような姿は揺らいでいき、女子用の制服をまとった、男性が現れた。男性にしては顔立ちが可愛らしいという点以外、立ち姿から男だとすぐにわかるほど、鍛えられた身体だった。
「ヒロインのセシル・イディアはいないし、誰が姫殿下を襲撃したのかと探しましたけど、簡単に犯人は見つかるわで、正直どうなってんだとは思ってましたが」
「いや、まって? 情報量が多すぎるのだけど?」
ついに、私の被っていた分厚くて巨大な猫が剥がれ落ちた。ほとんど、自分の素が出てしまっている状態で、私はそれなりの声量で叫んだ。ここが他クラスのある階でなくて本当によかった。
「もしかしなくても、この世界を知っているの……?」
「知ってます。俺も、あなたと同じですから」
セシルがいないのをいいことに、私たちは互いに知っている知識をすり合わせた。やはりというべきか、互いに転生者なことを周囲に隠している分、話は弾んだ。なぜなら、誰にでも言える内容ではないから。改めて、ルイス・アダルベルトと名乗った彼は、彼自身のわかっている情報を教えてくれた。
「俺は、まあいろいろ事情があってこの世界のような世界観のゲーム、アレをしていました。なので、なぜこの世界にヒロインがいないのかはわかりません。ですが、この世界はゲームではないので、そういったことはあまり気にしないほうがいいのかなとも思います」
「たしかに、あなたの言うとおりね、ルイス。私も、アンジェリーナとルドルフの年齢を考えないようにしていたし」
「でしょう? バグ、というのもいささか変ですが、大丈夫ですよ。あなたはあなたらしく前も向いて進めば。あなたが向いている方角が、必ずしも正しいとみんなが言わなくても、それがあなたの道なのですから」
セシルがいない間の護衛をどうするのだろうと思っていたし、学院という場所柄、護衛はセシル以外いないのかと思ったけれど、そうじゃなかった。父はきちんともう一人護衛をつけていたと知って、少し驚いた。
「陛下は、あなたを大切に思っておりますよ。もちろん、俺やセシルも、あなたのことが大切です、姫殿下」
「そう……」
柔らかな笑みを浮かべているルイスに、私は何も言えず濁した。その直後くらいにセシルが戻ってきたので、ルイスはいつものアリエルさんの姿になっていた。私たちのクラスは今日は研究課題のみの提出だったのでセシルが帰ってきたところで解散である。
「あ、おひいさん。ルイスに何吹き込まれたか知らねぇけど、あんま信用するなよ」
「何も吹き込まれていないわ」
「そういうところが心配なんだ!」
「どうしたのよ、急に」
「別に」
急に不貞腐れたセシルは、そっぽを向いて私とは視線を合わせない。どうしたのかと思ったけれど、そっとしておくに限ると思い、触らないことにした。
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