第34話

先日、入学準備をしていたと思ったら、早くも入学式を迎えた。時が過ぎるのは早く、数か月などあっという間で。入学式では国王陛下の名代として挨拶をし、先に入学していたアレックス様やギルベルト様には入学を祝ってもらった。


「側付きとしてアイリーン様のお側に控えさせていただいております」


そのアレックス様とギルベルト様にセシルを紹介すれば、えらく輝いている笑顔で二人に挨拶をしていた。普段見たことがない猫かぶり仕様に、内心私は驚いた。


「アレクシス・セルフォンスだ。よろしく」


「ギルベルト・サーシェスです。よろしく」


セシル同様に笑顔で手を差し出して、握手を交わしあう様はなかなか見られない光景だ。特に、普通であればただの側付きと貴族が握手を交わすことはない。


「アレックス様、ギルベルト様、それではまた」


「はい、アイリーン王女殿下」


「またお会いしましょう、アイリーン王女殿下」


気心知れた仲である分、話し方もお互いに少し砕ける。聞き耳を立てていた周囲の貴族令嬢たちからの嫉妬の視線が怖い。



眉間にしわが寄っていても、正統派イケメンと言われるアレックス様は、姿が見えただけで黄色い声が上がる。反対にギルベルト様は常に柔和な笑みを浮かべ、アレックス様よりは近寄りやすい印象を与えるのか、人に囲まれやすいようだ。


「セシル、心配はしていませんが……。一応……。言動には気を付けてください、どこで誰が見ているかはわかりませんから」


「わかってるよ、おひいさん」


「私も、気を付けておきます」


誰もいない教室で少し話をする。私は、どういう理由があってそうなったかは知らないが、なぜか普通のクラスではなく特別カリキュラムと呼ばれる、個人クラスに配属になっている。一応、それを伝えに来た教師に理由を尋ねてみたが、国王陛下からのお願いだと言われて明確な答えをもらえなかった。


 そして、その特別カリキュラムのクラスには、もう一人、新入生がいるとのことだった。その新入生をこのクラスの担任の先生が迎えに行っていて、今は二人きりというわけなのだ。


「でも、おひいさんは俺が守る。おひいさんが心からこの生活が楽しいと思えるように」


「セシル、気持ちは嬉しいけれど……。所詮この生活は期限付きよ。期限が来れば、楽しい時間など、無くなるの。だからそこまで気を張らなくてもいいわ……って、言っていることがなんだか矛盾しているわね。忘れてちょうだい」


「嫌だね、おひいさん。アンタの願いは俺が全部叶える。アンタの心も守りたい、一人でなんて苦しませたりしない」


「……そういうことは、簡単に言うものではないのよ……」


 顔が赤くなりそうなほどに恥ずかしい。でもなんとか気持ちを落ち着かせて、簡単に言う言葉ではないとセシルを諭す。どうしてそんなことを思ったのかはわからないけど、女性相手にホイホイと言う言葉ではない。



「失礼いたします」


入室の合図があり、その言葉の直後にがらりと教室の扉が開く。担任の先生と一緒に入ってきたのは、ふわふわとしたピンク色の髪にキラキラと輝く水色の瞳を持つ、とんでもない美少女だった。隣に立つのが嫌になるほどの美少女。


「こちらが同じ特別カリキュラムクラスに配属となる新入生の、アリエル・レイフォードです」


「お初にお目にかかります、レイフォード子爵家のアリエルと申します」


あれ、ヒロインじゃない……?


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