第33話

 目が覚めてから必死で失敗しないように公務をこなし、それと同時進行で入学準備も進めた。すでに入学許可証はあるので、一緒に送られてきた事前準備するものをリストを見ながら用意するだけだ。意外と準備するものは多くて、制服などはそろそろ発注しないと間に合わなくなる。


「レイラ」


「はい、アイリーン様」


「出かける準備をお願いできるかしら」


「かしこまりました。少々、お待ちください」


レイラに準備をお願いし、セシルも呼ぶ。


「セシル、出かけるのだけれど……。その……」


「ああ、一緒に行く。もちろん一般騎士に扮する」


「ありがとう、セシル」


レイラとセシルはいまだに顔を合わせたことがない二人だ。セシルはあえて会わないようにしているようで、本来の姿で会わないように気を付けているようだ。レイラもセシルという密偵が私の側付きになっていることには気が付いていない。


「失礼いたします、アイリーン様」


「入って」


 戻ってきたレイラが私の支度を手伝ってくれて、そのまますぐに部屋を出た。今日は急いでいる書類仕事はないので、逆に言えば今日くらいしか時間がない。


そうして馬車で移動し、制服を採寸して発注。そのあとは教科書となる書籍を買いに回ることにした。お忍びでこんな風に城下町に下りるのは、今思えばあまりないことだ。城内でほとんどが完結してしまうため、城下町までわざわざ出かけることがない。


「アイリーン様、お疲れ様でございます」


「ありがとう、レイラ」


「このお荷物は、すべてお部屋へ運んでおきます」


「ええ、お願い」


 荷物を運ぶ前にちらりとそれらを見て、思う。もうすぐ自分も入学なのか、と。私は今まで自分の勝ちを示すために行動をしてきた。それをすべて水泡に帰すかもしれない王立魔法学院への入学。ヒロインの出方次第で、私の今後の対応力が試される。


私は、物語のようなアイリーンにならないように、できるだろうか。公務にはほかの貴族のご子息ご令嬢との会食だってあった。そこではできるだけ波風を立てないように、無難にやってきたつもりだった。ご令嬢を招いたお茶会で、バチバチと火花が散っているかと思うようなくらいのマウントの取り合いを見たけど、敵はそこまでいないと思いたい。


「こわい、わね……」


物語のアイリーンは、いろんな死に方をした。どれも最終的にはほぼ自殺だったけど、原因はさまざまで、一番可哀そうだったのは他国に嫁がされて心労による自殺。いじめられていたという描写があったから、おそらくそのいじめを苦に自殺したのだろう。生々しいな、乙女ゲームなのにって思ったのは私だけじゃないはずだ。


「他国に行く可能性が、ないわけじゃない」


 結婚という手段を用いて、他国とつながりを持つということはよくある話だ。その嫁ぎ先はもちろん国王である父が精査するだろうけれど。それでも、行った先でどんな扱いを受けるかなんて、わからない。もしも、他国でもちゃんとした扱いを受けたいのならば、私に価値があるということを証明しなければならない。


それが、どれほど難しいことか。自分の価値を証明したくても、一瞬でも間違えば、転落する可能性だって否めない。私は、頑張れるのだろうか。


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