第31話

「お疲れさん」


「…………ええ」


あれから数日、一生懸命に考え抜いたお菓子や紅茶を使ったお茶会は二つとも成功した。女性陣を集めたお茶会では、まあ想像通りというべきかなんというか、激しいマウントの取り合いで大変疲れたのは言うまでもない。


「でも、どっちのも評判よかったよ」


「そりゃあね……。評判良くないと私の苦労が報われないわ」


男性陣は下の弟妹を連れてきてくれた人もいて、アンジェリーナとルドルフのいい顔合わせとなった。二人のマナーも想像以上によくできていて、これからは小さな公務なら一緒に行ってもいいかもしれないと思えるほどだった。


『おねえさま、わたし、もっとがんばります!』


『あねうえさま、ぼくも、ぼくもがんばります!』


そう言った二人は、より一層、勉学に励んでいると専属侍女も言っていた。あの王妃がいた時から双子を見てきた彼女が言うのだから、それは相当なものだろう。


「それにしたって……、ずいぶんと女の子は怖いわ……」


「いや、おひいさんも女の子なんだけどな」


「それは言わないお約束よ。だって、まさかあそこまで毒々しい環境だとは思わないじゃない」


「あぁ、なんとなく言いたいことは……。女って怖いなって俺も思ったくらいだし、あそこにいた男連中はみんな同じことを思ってると思うぜ」


 静かでありながら激しい争い、初めから権力を持っている私でさえも追い落とそうとする子もいて、内心苦笑いだった。言葉は丁寧なのに、端々に感じられる嫌味や悪意もあった。やっぱり、アンジェリーナもルドルフも連れて行かなくて正解だった。


「おひいさん、アンタ……。あんまり詰めすぎると倒れるぞ」


「あ、ちょっと返して」


 そうして少しセシルと雑談をしながら書類をさばいていると、書類を横から取られた。急に斜め後ろから手が伸びてきて、書き終わった書類とまだチェック中の書類をすべて取られてしまった。一瞬、セシルとの距離が近すぎて、ドキッとしてしまったが、書類を返してもらわなければ仕事は終わらない。


セシルは人との距離を詰めるのが上手で、私はセシルと話す時だけはずいぶんと砕けた口調となった。あれだけ必死で被ってきた王女としての巨大な猫は早々に失われたわけだが。その心置きなく話せるセシルが私の仕事を止めてきた。


「アンタ、自分のキャパが限界を迎えてるの、わかってるか?」


 彼の、言いたいことはわかっている。もともと、前世の私は容量が良くないし、この身体の持ち主だったアイリーン王女自信もそこまで器用ではないのだろう。一生懸命に自分改革をして変わったけど、どれもこれも最初は思うほどに結果が伸びなかった。


その時から、アイリーン王女自信の能力はそこまで高くないのだと気づいた。それでも、頑張ってきた。私は死亡フラグを搭載した、いや死亡フラグしか搭載していない王女だ。頑張らなくては人生がそこで終了なのだ。


「なにを、そんなに生き急いでるんだ?」


「あなたには、関係ないことよ」


けれど、それをセシルに言えるわけがなかった。実は前世の記憶があって~、なんて言い出した日には頭がおかしい人間扱いをされるに決まっている。セシルが、私に歩み寄ってきてくれているのはわかっているけれど、これ以上踏み込ませるわけにはいかない。

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