第30話

「女性の集まりのほうに連れて行かない理由はなんとなく察したわ」


「そういうことよ、察しが良くて何より。あなたはどうするつもり? お茶会まで来るの?」


「もちろん、ご令嬢方のお茶会には侍従として参加いたしますよ。アイリーン王女殿下?」


「はいはい、わかったわ」


 おどけたように言うセシルに、少しの安心感を覚える。やはり、いつでも人前に出るようなことは緊張してしまう。いまだに派閥争いがすごいこの王宮では私の評判もなかなか変わってはくれない。一度立った悪評は元に戻りづらいのだと感じ、苦々しく思ったのは言うまでもない。


「ちなみに婚約者候補方のお茶会には、近衛として参加するよ」


「あなたって、本当になんでもそつなくこなすわよね……」


「じゃなきゃ、密偵にそもそもなれないしな」


「そう、だったんだ……」


密偵の厳しい基準を垣間見て、ちょっとどころかだいぶ驚いた。密偵と言えば何が基準でなれるのかさえも私は知らない。王になる立場が確定したのならば、何かその基準を知ることができる機会があるかもしれない。でも、今のところ私は女王として上に立つ意思はない。


「それに情報収集能力や戦闘技術も高くないとなれない」


「想像以上に厳しい世界だったのね……。何か突出した才能があって引き抜かれるとか、そんな感じだと思っていたけれど……。考えを改めなければなりませんね」


「ははっ、まあ、おひいさんのその内容も間違っちゃいないよ……」


 どこか悲しそうなのがひどく印象に残った。しかしそれを聞くことはできなかった。なぜならその表情は一瞬だけだったから。


「さて、おひいさん。俺はそろそろ戻るから、また何かあったら呼んで」


「ええ、ありがとう」


セシルはそのまま下がったために、私は後日行うお茶会のための用意をすることにした。茶葉からお菓子類まですべて自分で用意しなければならないので、意外と忙しい。全部、厨房に任せっきりにしてもきっと怒られないだろうけれど、私がやりたかった。


「あ、ちょっと待って……。このお菓子はたしか……」


書類に書き出したお菓子の名前を見て、近年の作物の育ち具合を思い出した。このお菓子に使われている原材料を余らせている地区があったはずだ。しかも取り扱いが難しくて、日持ちもしない。処分を上回るほどに余っていると聞く。国外へ出しても、あまり国外では使われないものだから余計に扱いに困っているとも聞いている。


「それなら、このお菓子の原材料をメインにすれば……」


 多種多様なお菓子を用意して目でも楽しめるような華やかさを出そうと思っていたけれど、例のお菓子に使われている原材料をメインにすれば、男性陣を対象にするお茶会でも甘くないお菓子が出せるだろう。


「うん、これならもっとできるかも……」


もう一度、紅茶から見直して出すお菓子とお茶を考えた。レイラがそろそろ寝る時間だと言いに来るまで、それらは続いた。


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