第13話

「魔法は、神様からのギフトだと、この国では伝えられています。私はその魔法の適性がほとんどないので、夢物語のようなことしか言えませんが……。その、争いの火種にならない使い方をしていければと思います」


魔法、力が強ければ強いほど軍事力にもなる。たった一人の魔術師が、一つの大きな師団に匹敵することもある。魔法とは紙一重なのだ。


「魔法は紙一重のようなものだと、私は考えています。傷つけることも恵みをもたらすこともできる、それが魔法だと。幸も不幸もどちらの側面も持つのが魔法、そうであるならば私は幸せをもたらすものであってほしいと願います」


誰かを傷つければ、その分だけ誰かの不幸が生まれる。それが大きくなれば国単位の争いになる。そんな戦争のようなものを生まないためにも、正しい使い方を学ぶべきなのだ。



「争いあうのではなく、互いに切磋琢磨しあえるような関係性を国単位で築けることができるのなら、この世界は本当の意味で平和になるのではないかと、そう思うのです」


 まあ、平和の定義は人の数だけありますから一概には言えませんが、と言って断定することはしない。決めつけて固まった思考になるのは王族としてよくないと私は思うから。


「あなたは、全体を見通すのだな」


「魔法の適性をほとんど持たないなりに考えた結果です。もしも魔法がもっと使えるのであれば、そういった考えはなかったかもしれません」


「そうだとしても、それはあくまでも仮定形の話だ。あなたが今考えているのはあなたの歩んできた道が関係していることが感じられる」


穏やかな笑顔を浮かべる皇太子殿下に、私は照れ臭くなって、その照れを隠すために笑みを浮かべる。その言葉が出るということは、私の悪評が隣国の皇族の耳にまで入っているということを断定もできた。嫌なものだ、試されるというのは。


 王族として、間違った行動をしてはいけない。国民を守る力を王族は持っている、それを私は最初から間違ってしまった。その行動を悔いている。でも目に見える形で変わっても、人の認識というのは伝え聞く限りじゃ変わらないものなのだ。実際に目で見てみないと、見抜けるものも見抜けない。


レオンハルト皇太子殿下のしたことは正しいことだ。国を治める皇族の血筋、皇太子という立場に立つ、国民を守る一人として。試されるだけのことをした過去がある私が、皇太子殿下にそのことについて文句を言える立場ではないことも承知している。


「あなたは、素晴らしい王女だ。私も同じ国を治める立場の者として、見習わねばならない。本当に、この視察に同行してくれたことを感謝する。実りある視察だった」


「わたくしも、視察に同行させていただいたことで、大変勉強になりました。ありがとうございます」


和やかな雰囲気で視察を終えることができ、私は同席していた近衛騎士の一人にエスコートされながら馬車を降りた。もう一人同席していたが、その騎士はロイドさんなので、まだ気分的には疲れていない。これが知らない騎士二名だったら、今回のレオンハルト皇太子殿下への同行の疲れもあるのに心労が大きかっただろう。


「もう明日には出立だ……。寂しいものだな」


「ぜひ、またいらしてください」


「ああ、そうさせてもらうよ」


典型的な言葉を交わし、王宮内の与えられた自室に帰っていた。足取りは重く、身体も心なしか重く感じるが、背筋を伸ばし、そんなことは感じさせないようにしっかりとした歩みで長い廊下を歩いた。

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