第12話

 順調に視察は進み、レオンハルト皇太子殿下の視察も残すところ最後の王立魔法学院のみとなった。今日は最終日だ。王立魔法学院ではその名の通り、魔法を勉強する場所だ。こちらも貴族と平民関係なく入学を許可される。


「こちらが貴族位の生徒専用の玄関、あちらがそうでない身分のものの玄関、さらに奥にあるのが教授陣の玄関です。さすがにすべて同じにすることは難しかったので、別れております。教室もカリキュラムも、すべて別になっています。しかし、学べる内容に関してはどちらの身分でも変わりはありません。同じ内容をします」


同じ授業内容をすべての学生が学べるのも、この学院の売り。理解進度によってクラス分けがされており、かなりの生徒数を抱えているこの学院は、遠方からの生徒のために学生寮なども完備している。


「なるほど、横ではなく真正面にすることで相対することがないようになっているのか」


「はい、壁で隔ててありますから姿も見ることはありませんし声も聞こえません。どうしても建物自体が大きくはなってしまいますが元々、魔法の訓練施設も備えておりますので広大な土地さえ用意できれば玄関などは些細なことになります」


 魔法の学び舎なだけあって、さまざまな訓練に対応した施設が学院には必要になる。攻撃用の魔法もそれ以外の魔法もある。全ての対応できる訓練施設をつくるのは、魔術師を育成する学院を建立した国として当然の義務だ。


「ほう、ではどんな種類の魔法にも対応できるようになっているということか」


「はい。そして、訓練施設や教室なは時間割によって徹底的に管理されていますから、いらぬ争いを生まないというシステムです」


「そこまで管理をしているのですね」


「双方に火種を生まないように、との配慮です。普段はこのように管理がされていますが、年に二回、身分関係なく交流会を行うことになっているので大きな諍いなどは起きていないと、報告を聞いています」


「素晴らしいシステムだな……」


大きな諍いは起きていないだけで、小さな小競り合い……、喧嘩のようなものはたまにあるらしい。まあそちらは互いに納得がいくまでやりあうようなので、結局のところ丸く収まるのだそうだ。


 国内外問わず、魔法の知識に優れた専門家を教授として雇っているので学院の学習水準は高い方だろう。ここでも疑問点などをぶつけている皇太子殿下、その熱意は凄まじい。



殿下の尽きない質問がすべて終わったのは二時間後だった。一通り併設施設を見た後に通されていた応接室を出て、帰りの馬車に乗る。


「今日はありがとう。あなたをとても待たせてしまったのは、申し訳なかった」


「待たされた、なんて思っておりませんのでお気になさらないでください」


「ふむ、そう言っていただけると心が軽い。して、アイリーン王女殿下。あなたは王立魔法学院に通われる予定だとアイゼリア国王より伺っているが、その、差し支えなければ教えていただきたい」


 帰りの馬車内でも話が終わることはなく、今度は私自身のことを聞かれた。それも、魔法のことだ。今まで私は家庭教師の先生方に魔法も含めてたくさんのことを習ってきた。今も同じように継続している。その中でも残念ながら、適性が必要な魔法に関しては全くと言っていいほどに結果が残せなかった。


「その、お恥ずかしい話ですが……。わたくしは魔法適正がとても低く、そよ風を吹かせることしかできないのです」


「それは、大変失礼なことを聞いた。申し訳ない」


「いいえ、大丈夫です。魔法適正がないことは事実ですから」


「あなたは、魔法をどう考えているのか、聞いてもいいだろうか」


魔法、という非科学的な、説明が曖昧にしかできない不思議な力。この魔法は神様からのギフトだとこの国では伝えられている。だからと言って、魔法適正がない者をギフトをもらえなかった人間だと馬鹿にする者はいない。


なぜなら、たいていの人間が魔法に適性があるからだ。私のようなほとんど使えないというような者はほぼ存在しない。


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