場末のスナック
お菓子じゃないよ。
呑み屋さんね。
そんな偉そうにぺらぺら喋れるほど詳しいわけではありません。
なんたって働いてたの1年やそこらですからね。
なんで働いてたかといえば、端的にいうと「人にそそのかされたから」です。
端的じゃなくてちゃんと説明しますと、その当時、20代前半ですよ、懐かしい。
あー違う違うええっとねぇ、その当時、ちょっと前かな、わたしは、結婚する予定でいた当時の彼氏と同棲をしておりまして、優雅なフリーター生活を送っておりました。
ところがあるクリスマス直前にあえなく破局。
それに伴って家賃その他もろもろが倍増、ついでに掛け持ちしてたバイトをうっかりひとつ辞めてしまったばっかりに、いきなり生活が困窮し始めたのです。
そのときメインで働いていたのは服屋さんだったのですが、そこのいけ好かない上司がそんなわたしに声をかけました。
「なっちゃん今大変なんでしょ、私今ね、人を探してるところ知ってるんだけど」
その上司はつい先日めでたく結婚されたばかりで、んもう幸せの絶頂! 脳内お花畑! いやもう庭園!! 状態でした。
そんな彼女の旦那さんの上司が、行きつけのスナックに女の子紹介できないかと探している、という。
つまりは「私は旦那さまのためならなーんでもできちゃうもんね!」という彼女の見栄の餌食に抜擢されたわけです。
それまで居酒屋くらいしか行ったことのなかったわたしは、当然やんわりお断りしました。
でもねぇ、しつっこいのよ。
ねずみ講みたいにしつこい。
「もうあなたのこと言ってあるから!」とかあんたなに言ってんの? ってはなしですよ。
だからわたしは、こりゃ埒があかねえな、と判断しまして、面倒くさくなっちゃったので、直接そのお店にお断りをしに行くことにしました。
そのお店は、寂れた駅前の寂れた雑居ビルの2階にありました。
もうねぇ、入ったことないもん、そんな雑居ビル。
入っちゃいけない雰囲気が漂ってる気がしてくるんだもん。
あららー、とか思いつつ勇気振り絞って階段登りまして、目的の看板見つけたので、もっかい「畜生!」とか思いながら勇気振り絞って、ドアを開けてみました。
そしたらそこは、とても落ち着いた雰囲気のオサレな店内でした。
カウンターの向こうにマスターがいて、カウンターにひとり、初老の男の人が座っていました。
奥にはテーブル席もあって。
とーっても優しそうなマスターが、わたしを見て、
「あー、聞いてた子だね」
と、すぐに席を用意してくれて、お断りをしに行ったつもりが、気づくと何故か3人で「かんぱーい!」しておりました。
お客さんがご馳走してくださったのです。
良い人。
そんで、いくらかお話をしまして、わたしがぽつりと「金がない」と言ったところ、マスターが
「素直! 素晴らしい! 採用!」
と笑顔でテーブルをポン! と叩きました。
んんんんん!?
なんか違うそうじゃない!! ってなったんですけど、そこでついつい「人生なんでも経験」根性が出てきてしまいまして、お店とマスターの雰囲気を鑑みたうえで、「ま、いっか」と思ってしまったのです。
そうしてわたしは、相談の末、金曜日と土曜日だけ、服屋さんが終わったあとに、そのスナックで働くことになりました。
なんだか長くなっちゃったので続きはまた今度。
いろんな人がいましたよ。
とても良い経験をしました。
続きはちょっと待っててね。
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