場末のスナック 2
さてさてどこから書きましょうか。
まずこのお店、わたし以外に女の子がいませんでした。
マスターと、時々ママと、あとわたし。
こじんまり。
たいへん楽でした。
服装もスカート履いてさえいればなんでもいいよって感じのカジュアルなお店だったので、いつも膝上丈のスカートにピンヒールを履いていました。
このピンヒールがね! 当時のわたしは8センチヒールを好んで履いていたんだけど、女性の方なら分かるかな、結構高さがあるんですよ。
わたし日中も服屋さんでそんなんばっか履いて店のなか8時間程度うろうろしてて、夜も基本的にはそのままカウンターで深夜2時とかまで立ちっぱなしだったわけです。
高いヒールは足の負担がすごいのと同時に、腹筋も必要なんですよ。
おかげでわたしその頃腹筋が縦に綺麗に割れていました。
真ん中に一本線入ってて、腹だけはモデルさんのようでした。
まああの、妊娠出産を重ねて今では見る影もないですけどね。
「おかあさんのおなかふわふわ~」って頬擦りされて悲しい気持ちでいっぱいです。
脱線。
お店には沢山の常連さんがおられました。
毎日きて『わかば』を吸いながら安酒とカラオケを堪能してツケで帰っていく人とか、同じ歌を来る度に歌ってそれについてずーっと語ってる人とか、上司と部下だったり、さっきそこで会ったばっかの知らない人同士だったり、刑事さんだったり、地元のスターみたいな人とか、いつも何かしらのプレゼント持ってきてくださる方とか、奥さんが怖いって嘆いてる方とか、仕事の愚痴が止まらない人とか、チークダンスを要望してきたりとか、本当にいろんな人がいました。
比較的年齢層の高いところだったかと思うんだけど、みんなとても呑み屋ってものに慣れてるというか、紳士な方が多かったです。
ボックス席に座ると太もも撫でてくる人もやっぱいるんだけど、必ず別の人が嗜めてくれる。
若い人のほうが態度悪いのが多かったかな。
抱きついてきて離れなかったり、トイレに連れ込まれそうになったときもあったなあ。
危ない危ない。
圧倒的に男の人が多かったんだけど、中には女性の常連さんもいて、『ゆみねぇ』って呼ばれてる人がいました。
ゆみねぇって、ゆみ姉ちゃんってことなんだけど、50歳前後じゃなかったかなあ、とても格好いい女性がいました。
マスターと仲良しで、いつもマスターのことを「あのたぬきジジイ」と呼んでいました。
グラスビールに氷を2つ入れて飲む人で、『メモリーグラス』を歌うのが得意で、勤め先の人と不倫してて、地元のスターに片思いしてる人でした。
わたしは彼女にとっても可愛がってもらっていて、いつもさりげなくフォローしてくれたり、仕事終わりにマスターと3人で行きつけの焼き鳥屋さん行ってご馳走してくれたり、泣いたり笑ったり忙しい人でした。
なにも知らないわたしにいろんなことを教えてくれました。
こんな大人になりたいなって思っていました。
ゆみねぇもそうなんだけど、いろんな人を見てきて、ああ、人を育てるのって、やっぱ人なんだなあ、って思ってました。
酒場は人生の縮図って言いますけど、まさにその通りで、酒が入って素が出ている状態で、すぐ隣にいる赤の他人とどう上手く付き合うか。
自分の立ち位置の弁え方というか、人との距離感とか、付き合い方とか、ものの考え方とか、強さとか優しさとか、そういったものは、人を見て、人に教えられて学ぶ。
そうやって自分を人間としてつくっていく。
そういうのを目の前で何度も見て、または自分がそれを経験して、ああ、なんっちゅう濃い世界だと。
いろんな人がいる。
いろんな人がいて、いろんな考え方があって、いろんなやり方がある。
それらはより多くの人に出会うことによって自分のものになっていく。
それらを教えてもらうことができて、わたしはこの世界に飛び込んでみて良かったなと思ってます。
最後に、働きだして2 ヶ月くらい経ったある日のいけ好かない上司の言葉。
「え!? なっちゃんまだそんなとこで働いてるの!? いやあねえ、早く辞めなさいよそんなとこ!」
っはあああああああああ!?
ってなったね。
そもそもの発端はあんたなんですけど!
こちとらきちんと金貰って働いてんだよ、わたしはあんたと違うんだからそんな無責任なことできっかい!!
びっくりして横にいたパートのおばちゃんとアイコンタクト取ったよ。
「殴っていい?」
「やめときなよ」
目で会話したのって初めてだったけど、案外できるもんだね!
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