其の四
俺だってこう見えても結構な読書家である。
右から左、科学から歴史に至るまで
間島氏の著作を幾つか読んでみた。
しかし・・・・彼の著作にはまともなものはほとんどない。いや、全くというべきだろう。
特に『日本の戦争犯罪』とやらに関するものになると、いい加減を通り越して、最早タチの悪い『単なるグロ小説』と化していた。
殊に軍隊の組織に関する記述がでたらめだ。
幾ら旧軍と自衛隊は違うとは言っても、機構その他については結構似たところがあるし、戦争に関する基礎知識もある。
確かに旧軍はかなり精神主義的な部分があったのは事実だが、曲がりなりにも当時は近代的な国軍だった筈だ。
久坂少尉は歩兵砲部隊の小隊長である。
部下も恐らく20人はいただろう。
戦闘ともなれば、砲移動。照準確認、弾道修正、弾着確認など、目が回るほどの忙しさだ。
隊長は部下を統率し、尚且つ命令も出さなければならない。
そんな忙しい部署にいた人間、しかも小隊長が、自分のやるべき任務を放り出して、白兵戦なんかに出て行ける筈はないし、無論お呼びだってかからないだろう。
大隊副官の竹中少尉だって似たようなものだ。
副官が自分の任務をほったらかしていたら、大隊そのものが機能しなくなってしまう。
ましてや斬り殺したのが敵の兵隊ではなく、ただの民間人を、自らの功名心のためだけに斬り殺して回っていたら、命令無視ということで、直ぐに中隊長なり、大隊長なりから呼び出しを喰らって、下手をすれば軍法会議ものだ。
軍隊と言うのは世界中どこだって、タテ社会の典型みたいな組織だ。
この間島という男は、それを全く理解出来ていない。
彼は久坂少尉の遺族に対して『綿密な取材を行った』と言ってのけたという。
戦意高揚のヨタ記事を元に死刑にされた少尉も気の毒だが、死してなお、その記事を捻じ曲げた本で、本人のみならず遺族までが鞭打たれているのである。
しかし、当の間島氏は新聞社を退社した後、彼はフリーのドキュメンタリー作家に転身し、平和に関するパネルディスカッションなどにも出席していたが、ここのところはすっかり鳴りを潜めていて、行方はさっぱりつかめない。
それでも彼の著作は未だに出版され続けている。
俺が調べたところによれば、久坂少尉の地元の佐賀県では、教職員組合とやらの教師が学校の授業で、彼の著作を子供に読ませ、ロクでもない作文を書かせたという。
俺は軍隊というもの、戦争というものを無批判に肯定してるわけではないが、何の理由もないのに、裏付けのない感情論や、個人の道徳だけで語ってしまうのはもっと嫌いだ。
ましてや死者に鞭打つのは、これはいってみれば『いじめ』そのものではないか?
久々に燃えてきた。
滅多にカッカしないこの俺が、である。
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