11-4
右脚を失って倒れ込んだ令は、腕で上体を起こしながら必死に考えていた。様々な思考と戦いながら。
(無敵の存在かだって? ――そんな訳はない!! “無敵”なんて考えは、ただの諦めに過ぎない! 考えることを、戦うことを諦めてしまった結果だッ!)
令は周囲を警戒しながらも懸命に頭を働かせる。戦うために。勝つために。
(考えろ――考えろ!! 答えはある! どんな得体の知れないものでも、目の前で起きている以上、必ず答えはある!! ――目の前で……)
過熱していた令の頭に、ふっと冷静さが宿る。
令の視線の先では、
(見えない敵――センサーにすら引っかからない敵――)
思考は数珠繋ぎに繋がっていく。
(水の沸騰――見えない攻撃――)
全ては、ひとつに。
(――交通事故)
視界が
遂に出口に辿り着いた。
「分かった……。やっと分かったよ――“敵の正体”が」
令が発したその言葉に、光輝は「えっ」と声を漏らす。その表情は驚きに満ちていた。
“器”姿の令は低い体勢から、じっと光輝を見上げる。その顔を。その瞳を。
「答えはずっと目の前にあったんだ」
令は間髪入れずその先を続ける。全ての核心を、力強く。
「光輝君――君が、“ハッピージョージ”だ」
光輝の呼吸が、一瞬止まる。
どう息を吸ったらいいかを、束の間忘れてしまうほど、令の言葉は衝撃的だった。
光輝の顔にはいっぱいに驚愕と困惑が満ちている。光輝は戸惑いながら言葉を絞り出す。
「なっ、なに言ってるんですか……?! 僕が“ハッピージョージ”?! 僕は、アイツに命を狙われてるんですよ!?」
光輝の声は悲痛なものだった。信頼していた令にかけられたあらぬ疑い。心外を通り越して嘆きに似ていた。
しかし、令は至って真剣に、そして冷ややかなまでに冷静に応える。
「いや――正しくは君の起こしている“現象”が“ハッピージョージ”の正体なんだ。――“ハッピージョージ”なんて奴は、現実には居ないんだよ」
光輝はその言葉が呑み込めない。理解を超えている。
令はその当惑にも気付いて、光輝にハッキリと告げる。――重大な“真実”を。
「光輝君、君は――“リヴァイヴ能力者”だ」
光輝が極限ともいえるほどに眼を見開く。
「ぼ、僕が“リヴァイヴ能力者”……?!」
話についていけないでいる光輝に、令は優しくも淡々と伝え続ける。
「“リヴァイヴ”っていうものは、多くの場合が“臨死体験”をきっかけに引き起こされるんだ。――君は交通事故に遭ったその時、“リヴァイヴ”したんだ。意識を失っているあいだに、自覚もせず」
令のその言葉に光輝はカッとしたように言葉を返す。
「そ、そんな訳ないですよ! だってアレは、アイツが起こした事故なんだから!!」
「いや、その事故は本当に――」
そう言っている途中だった。令の目の前の空間に、突然、一点“歪み”のようなものが現れ、令は瞬間的に頭をずらす。
一拍の間もなく令の首元がパックリと斬り裂かれ、その勢いで令は後ろに押し倒される。それを見て光輝が悲鳴を上げる。
「霧矢さんッ!?」
「――“不安”だ。君の能力は、君の不安や恐怖を引き金に発動されている」
その状況にも関わらず、令は冷静だった。しかし声には
令は背中から倒れた姿のまま、頭だけをなんとか上げ、依然として語りかける。
「今も君の“真実を知る不安”に反応して能力が発動されたんだ」
令は辛うじて視界に光輝の混乱した顔を捉えながら、続ける。
「君は恐らく、あの事故で“脳の一部”を損傷した。だけど症状が現れないから見過ごされたんだ。――だが現実には“症状”はあったんだ! 君の損傷した脳がいたずらして、勝手に能力を発動させているんだッ!!」
令に突きつけられた現実を、光輝は受け入れられない。
光輝は後退しながら拒絶する。
「違う……違うっ! 僕にはなにも能力なんてっ!」
「いや、君はリヴァイヴ能力者だ! それも……“空気”を操る!!」
「空気……?」と呟いた光輝に対し、令は再び身体を起き上がらせる。
「普通、水は百度にならないと沸騰しないが、空気を排除して“真空状態”を作れば常温でも沸騰する! 君の周りが突然に斬り裂かれていくのは、“超高圧の空気”で、空気の“刃”を創り出しているからだ! ――まるで“ウォーターカッター”のように!」
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