第十一話『“ハッピージョージがやってくる”5』

11-1

 死霊はそのボロボロの身体でカタカタと幹公木かんこうぎあざけり笑う。

 幹公木はその様子を槍を構えたまま動きを止め、呆然と見ていた。


「バカなっ! これ程のダメージを負って、“器”に魂を維持出来る訳がないッ!!」


 幹公木が吠えるように叫んでいると、死霊の背後からが急激に飛んでくる。

 幹公木が視界に捉えたそれは――だった。

 まるでフライングディスクのように、金属製の蓋が幹公木を目掛けて飛んできているのだ。


 幹公木はそれを認識すると、自らの間合いに入った瞬間、十文字槍の柄で蓋を叩き砕く。

 飛び散った破片を顔に当てながら幹公木が毒づく。


「先のトラックといい、仕込みの多い!! ――俺を迎え撃つ支度したくをしていたか!」


 幹公木が睨みを飛ばす先で、死霊は此方こちらを見たまま音もなくすうっと後方へ飛んでいく。それと入れ替わるように、また“蓋”が飛んでくる。――今度は“無数”に。


「チィ!」


 幹公木は苛立いらだちをあらわにしながら避けきれない蓋を叩き砕き、視線を死霊に固定したまま横に駆けていく。

 死霊は穴だらけの姿で、幹公木を嘲るようにボロ布のような服をひらひらさせながら宙を舞い、此方を見下ろす。

 その死霊が見下ろす先で、幹公木の伸ばした左手から突然、残像が実体を得たように“もうひとり”の幹公木が姿を現す。その幹公木が走りながら少し離れると、元の幹公木の左手からまた“もうひとり”幹公木が現れる。気付けば、あっという間に走る幹公木は“三人”になっていた。


「もう一度引き摺り下ろしてやる」


 ひとりの幹公木がそう言って、再び槍を投げる。

 力強く直線的に槍は飛んでいったが、今度は死霊はひらりと回転しながらそれを避けてみせると、突然に低空を飛ぶ。

 幹公木とは距離を離しながらも死霊が飛んでいったのは、先ほど突き破ったショーウィンドーの前。

 死霊はそこまで行くと、大鎌を逆さまに持ち、さながらホッケーのように器用にガラスの破片をすくい上げ、幹公木目掛けてシュートする。――しかし、その鋭いシュートは幹公木の頭上に飛んでいった。


何処どこを狙って――」


 そこまで言って何かに気付いた幹公木は、瞬時に頭上を見上げた。

 見上げた幹公木の視界に飛び込んできたのは、“浮遊する物体”。闇の中に浮かぶそれが何か、正体はすぐに分かった。


 ――“ガスボンベ”。


 死霊が飛ばしたガラス片はガスボンベに突き刺さり、ボンベからプシューと気体が漏れ出す音が鳴る。

 幹公木が瞬時に逃走を決める中、ガスボンベは落下し始め、死霊はもう一度ガラス片をシュートする。今度の狙いは――“電線”。


 ガラス片が電線を切断し、電線はその先端をスパークさせながらガスボンベ目掛けて落ちていく。

 そしてそれは、幹公木の足より速くガスボンベのそばに辿り着いた。

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