10-6

 あと少しで電線から放たれる電撃が光輝こうきを捉える範囲に来てしまう――というところで、令が叫んだ。


「確かに触ったぞ!!」


 その叫びと同時に、電線は突然何かに引っ張られたように

 ――令が電線を“軽く”したのだ。

 空気より軽くなった電線は落下の勢いより浮力がまさり、電柱に繋ぎとめられながら風船のように空を目指す。


「光輝君! 早くこっちに来い!」


 令は辺りを警戒しながら光輝に叫ぶ。

 しかし、光輝はその呼びかけに対し、一歩身を引いた。光輝がうつむきながら呟く。


「だめです……。霧矢さんでも……霧矢さんでもっ! “アイツ”には敵わない!! “アイツ”は無敵なんだ!!」


 光輝のその悲鳴に似た叫びに呼応するかのように、光輝の脇にある電柱に“切れ目”が入るのを令は見逃さなかった。


「危ない!!」


 先程見た庭の樹のように、ずるりと電柱が二つに分かれようとする。


(ダメだ!! この距離からじゃあ間に合わない!!)


 光輝は、令の叫びにも目を閉じ、覚悟したようにじっとそこを動かなかった。

 電柱の“上部”が、光輝の方へ動き始める……。


「こっちに来い!!」


 令は叫んだ。――しかし、それは“光輝”に向けられたものではなかった。

 電柱は令の叫びと共に突如として向きを変え、令の方へ向かって倒れ始める。


 ――令が、先程軽くした“電線”を、今度は“重く”したのだ。


 突然重くなった電線に引っ張られ、電柱が振り下ろされるように令の方へ倒れ込むが、令は間一髪それをかわしてみせた。電柱は令をかすめ、地面を叩きつける。アスファルトとコンクリートが同時に砕け散る。


「何なんだこれは――ッ! 突然気配もなく物が切れてゆく!!」


 思わず叫んだ令に対し、光輝は思い切り叫ぶ。


「霧矢さん早く逃げて下さい!! こいつは、僕を殺すまで止まらないんだッ!!」

「殺させるものか!! 俺は絶対に――」


 言葉の途中で、令は突然身体を横に引っ張られる。

 ――いや、引っ張られたのではない。バランスを崩したのだ。

 、バランスを崩したのだ。


 なす術もなく倒れた令の下敷きに、令の“右脚”がなる。


「しま――っ! 機動力が……!!」

「霧矢さん!!」


 光輝の悲痛な叫びが木霊こだまする。こんなこと望んでなかった。

 いや、望まぬ展開だった。


 倒れ込んだ令は、即座にそばに転がっていたコンクリートの破片を握り込む。

 そしてそれを辺りにばら撒いた。

 撒き散らかされた破片は重みを失い、以前やったように辺りを跳ね回る。

 周りの壁に当たって、破片たちが縦横無尽に辺りを飛び交う。

 ――何のにもぶつからずに。


(敵は見えない……破片もぶつからない!! ――しかし、敵の攻撃はやってくる!!)


 令は周囲に視線を走らせる。


(死角から攻撃しているのか――!? だが、“上”から見ても誰も居なかった! 気配もない!!)


 食い入るように令は周辺を観察する。――しかし、人影などない。


(まさか……まさか敵は本当に“無敵”の存在だとでもいうのか――ッ?!)




 End


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