8-2
「で、そこから実はウチも絡んでくるんだけど……」
「SCCAが?」
唐突に出てきた身近な存在に、令も少し面喰う。
秋津佐は令の反応も予想していた様子で、変わらず続ける。
「うん。実は彼、三か月ぐらい前に、“ウチ”や警察に何度か通報していたことがあるの」
「通報って――やっぱり彼は何かに巻き込まれているのかッ?」
昨日の出来事と秋津佐の話が繋がり、令は一気に声のボルテージを上げた。
だが、一方の秋津佐の声は低く、平坦だった。その声に熱が
「あぁー……まあそうね。“誰か”に狙われてるって、彼がね。ウチも最初はそういう扱いで動いてたんだけど、彼の話を聞いてる内に事情が変わったらしくて……」
「事情が変わったって……何があったんだよ?」
「実は彼が“襲われた痕跡”を見つけたから、ウチもまだリヴァイヴ事件だと確定しないまま警備をつけたりしたんだけど……」
そこで秋津佐が一拍溜める。それは話術としてのテクニックからではなく、この先のことがなんとも言い辛かったからである。何故ならば、この先からこの話は様相を変えていくのだから。
「彼が言い出したのよ。ハッピージョージに殺される――って」
その唐突に出された不可思議なワードに、思わず令も訊き返す。
「“ハッピージョージ”……?」
「そう、“ハッピージョージ”……。アメリカのホラー映画に出てくる殺人鬼よ。コレが出てきたことによって話がややこしくなって……」
電話越しでも秋津佐が頭を抱えているのが分かる。令も少しそうしたいくらいだ。
「うちの職員が不審に思って彼のことを調査したら、事故のことや、精神科で治療中なことが
「なっ!
秋津佐に教えられた事実に令も声を上げて困惑する。
令には流石にそれは早い決断に思えて仕方がなかった。まして、精神に病を抱えているというだけで。
秋津佐も少しだけ
「元々SCCAにも確信があった訳じゃないのよ。そこに来てそんな背景が分かったもんだから……。せめて職員止まりじゃなくて、捜査官にまで話が上がっていれば状況は違ったんだろうけど……」
その言葉に令は深々と溜息を吐く。
「ハア……。人手不足の弊害だな。ジャッジをミスした」
「……まあ、弁護する訳じゃあないけど、一応ウチが動くことになった判断材料が“コレ”だったっていうのも大きいわね」
そう秋津佐が言い終えた後、令のスマホの短い着信音が鳴る。
令がスマホを耳から離して画面を見れば、秋津佐から画像が転送されていた。
そこには――刃物で何度も引っ掻かれたような傷がついた、コンクリート壁が写されていた。
令はその写真を見てほんの少し顔を歪める。誤った判断が生まれた理由を、少し理解してしまったからだ。
「“自作”しようと思えば、出来てしまう
「そうね。でももう事情は違うわ。昨日のブランコの件、明らかにリヴァイヴ能力者が絡んでる」
声の張りからいって、秋津佐はもう乗り気なようだった。
しかし、そんな状態の秋津佐に対し、意外にも令は熱の冷めた冷静な声を返した。
「秋津佐、光輝君の電話番号と住所分かるか?」
令の様子が落ち着いていることに少し驚きながら、秋津佐はすぐに返答する。
「ええ。情報を転送してあげる。……ねえ、彼に護衛をまだつけてないけど、先につけておく?」
「あんなことが出来る能力者相手に、一般職員送ったんじゃあ
令は既に、覚悟を決めた泰然とした瞳になっていた。その茶色の瞳には、静かなる決意が宿る。
しかし秋津佐は返す。
「でもあんたにだって自分の仕事があるでしょ?
「いや……どうも気になることがあるんだ。この件はアイツより俺の方が向いてると思う」
「そう……。じゃあ、あんたに任せていいのね?」
食い下がる令に対し、秋津佐もそう深く否定するつもりはなかったようだ。
秋津佐の言葉は問題を投げっぱなしにしているようにも思えるが、それは令への“信頼”があってこそだった。
令はにわかに微笑む。
「ああ、それで頼む。……協力はまだ頼むかもしれないけど」
「ま、最後まで付き合うわよ」
仕方なさ気に言う秋津佐の声は、少しだけ楽しそうだった。
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