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 ◇ ◇ ◇



 某所、とあるビル。

 事務所として利用されているその部屋に、一人の男が帰って来る。

 この事務所のあるじである恰幅かっぷくの良い男は、部屋の電気をつけると同時に胸をドキリと高鳴らせた。


 明かりの灯った室内には――先客が――“鍔の広い帽子”を被った男がたたずんでいた。

 恰幅の良い男は見開いた眼を普段通りに細めて言う。


「アンタか。鍵を掛けてあるってことは、“勝手に入るな”ってことなんだがな……」

「いやいや、すみません。中に居るのかと思いまして。――相変わらず“商売”は盛況のようですねえ」


 飄々ひょうひょうとした態度の帽子の男は、喋りながら部屋を見渡す。

 部屋には高そうな調度品やら飾りやらが、そこかしこに置いてあった。


「まあ、ぼちぼちだ。それで……何の用だ? 泥棒しに来た訳でもあるまい」

「いやあ、些細なことで恐縮なのですが、少々“勿体ない”と思いまして……」


 その言葉に恰幅の良い男はあからさまに眉をしかめてみせる。

 間を置かずに訊く。


「一体なんの話だ?」

「貴方は気付いていらっしゃらないようですが――貴方の部下に、“リヴァイヴ能力”を持った方がおられるようですよ」


 帽子の男のその言葉に、恰幅の良い男は目の色を変える。


「なんだと? ……一体ソイツは誰だ?」


 ただす低音の声に、帽子の男は虚空を見上げながらくるくると指を回す。


「あー。なんて言いましたっけ……。なにか色が関わっていたような……赤……青……そうだ“青”っ。“青草”とかいう男ですよ」


 それを聞いて恰幅の良い男は怪訝そうに表情をゆがめる。


「青草? あの根性無しがか?」


 男の反応に帽子の男はちいさく笑う。


「フフフ。根性がないのなら、貴方が鍛えて差し上げればいいじゃないですか」


 帽子の男のその言葉に、恰幅の良い男は重厚な椅子に深く沈み込みながら考え込む。


「アイツがか……」


 短く考え込んで、男は顔を上げる。


「おい、だが何故 態々わざわざそんなことを教えに――」


 しかし、男が声をかける先はもうなかった。

 帽子を被った男は、影も形もなく、ましてや音もさせずに姿を消していた。


 一度深く溜息を吐いてから、一人きりになった部屋で、男は再びなにやら考え込む――。




 『SCCAの日常ノーマルデューティーズ』End


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