4-3

「時間の問題だ! 必ず引きとしてやる!!」


 敵は息巻いて転がりだす。

 だが令は冷静に言う。


「いや、自分から降りるよ」


 そして令は、敵の進行方向ではないが、空中を捨て地上に着地してしまった。

 敵は空気の破裂と共に即座に進行方向を変える。

 その動きには一瞬たりとも迷いもロスもない。

 敵はすぐさま令のもとへ転がっていく。


 だが令は、その猛烈な勢いで転がってくる球体を、横回転しながら跳び越え、間一髪かわしてみせた。


 ――しかしその間に敵に触れることは出来ず、ギリギリの行動も、令の得たものはないように見えた。



「マタドールのつもりか? 一か八か触れることに懸けたか!!」


 敵は猛スピードを殺し、ストップして令の方に向きなおる。

 しかし――振り向いたそこに、姿

 敵はすぐさま角度を変えて、空中をあおぎ見る。しかし、そこにも令は見つけられない。



「一か八かってほどじゃあない。ただ、降りなきゃいけなかったんだ――」



 令の声は――頭上から聞こえた。

 敵は、ゴロリと動いて真上を向く――



「“そいつ”を拾う為にな」



 とんでもない音量で甲高い音を中心とした破滅的な衝突音が倉庫内に響く。

 音は反響し、凄まじいノイズとなって倉庫内を暴れ回る。

 工事現場ですらこんなに酷い音はしない。


 そんな騒音の中心点で――敵は――敵の“器”は――

 まるでよく出来た泥団子が壊れてしまったように。


 球体状の壊れた“器”の中心にあったのは――金属質の丸い“かたまり”。

 それは――敵がバンを丸めて造り出した、あの“砲弾”だった。


 令は、空中から敵を見下ろしている時に、令を襲ったそれがまだ床に落ちていることに気付いたのだ。

 そしてそれを拾う為に、危険をおかして地に降りた。敵はそんな令の思惑など知らずにまんまと攻撃してしまい、令が砲弾を拾ったことを


 再び、令が空中から降りてくる。今度は敵に襲われることがない状況で。

 令が降りてくると同時に、完膚かんぷなきまでに破壊された敵の“器”から、敵の魂が漏れ出てきた。


「運の良いやつだな。魂ごと貫いちまったかと思ったぜ」


 令は敵のたましいに向けて式札を構える。

 そうするとこの厄介な敵の魂は、なす術もなく式札に吸い込まれた。


 長らく残響していた衝突音も、ついぞ、消える。




「さて……」


 回収した魂の入った式札を腰のベルトに付けた小箱にしまいながら、令はあの血色の悪い男をちょっと探して、すぐにその姿を見つける。

 男は、倉庫の柱の陰でぼうっと突っ立っていた。

 令は男のそばに寄っていく。


「あんたは大人しく投降してくれよ? あんたがしたのは大した罪じゃあないんだからさ――」


 喋りながら近づいていくに連れ、令は男がなにやらことに気付く。


「ああ?」


 令も耳をかたむけるがハッキリ聞こえない。

 その声は聞こえるか聞こえないかギリギリの声量だった。


 それは、恐らく令に話しかけているのではないのだろう――。



「……だ。やらなきゃやられるんだ……。ボスの言ってた通りだ……。……!!!」



 突如、男がキッと顔を上げる。

 令も一瞬その鬼気迫る形相にひるむ。

 男の、“見えない球を挟むように構えた”両手の間に、閃光が走る。



 次の瞬間――



「アアアアアアア??!」


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