2-3

 令はすぐに、敵が今の今まで居た場所を

 そこには――大穴がぽっかりと口を開いていた。あの巨大な敵が落ちていってしまうほどの大穴が。

 そして更にその穴の奥を覗けば、そこにあったのは――。

「しまった! 下水道か!!」

 穴を覗いた時にはすでに敵の姿は何処どこにも見えない。

 令は下水道の存在で瞬時にあることを思い出す。

(下水道ってのは確か、水の流れを作るために傾斜しているんだ……!!)

 極度に重くなった敵は、いとも簡単に傾斜をしまったのだ。

 ――さながらウォータースライダーを滑っていくように。


「マズイ……俺の能力の有効範囲から逃げられた――!!」

 令は穴を見下ろしながら逡巡しゅんじゅんする。

 追わなくてはいけない。

 今追わなければ、あの爆弾魔は自由の身となる。

 もし奴が身を潜めてしまえば、見つけ出すのも困難になってしまうだろう。

 例え隠れなくても、縄張りがバレてしまったと知った奴の次の標的を予測することは極めて難しいだろう。

 次の被害者を生まない為にも――今、此処ここで奴を捕まえなくてはいけない!

 ――それは令にも確かに分かっていたが、敵が何もせずに行った訳はない。

 九分九厘くぶくりん、この先には敵の仕掛けた罠が待っているだろう。

 この穴に入ってしまえば、命の保証はない――。


 令の見詰める先、公園に空いた大穴が、只ならぬプレッシャーをその深奥しんおうから邪悪にただよわせていた――。



「行くしかないよな……行くしか!!」

 令は口に出して自分を鼓舞こぶする。

 しかし同時にこの先の展開も考えなくてはいけない。

 時間は非情なほどにない。


 時間を掛ければ掛けるほど敵に準備する時間を与えてしまうし、最悪逃げられてしまう。

 だが、無策にこの先に飛び込むのは死にに行くようなものだ。

 考えなくてはいけない――敵がどんな行動を取るか。


 ひとつは、罠を仕掛けること。これは確実と言っていいほどにやるだろう。

 もうひとつ敵がやるであろうことは、“器”を創り直すこと。

 能力の有効範囲から出たといっても、“触った”ことがリセットされる訳じゃあない。

 再び能力の有効範囲に入れば、また能力は発動出来る。

 敵の能力も“接触”することが条件なのならば、これは理解しているだろう。

 だから、敵はまず間違いなく“器”を創り直している。

 一度分解し、再構成すれば“触れた”という事実は消え去る。

 つまりこの先で待ち構えている敵と遭遇しても、すぐに制圧出来るということはまずないということだ。

 また、一から戦い直さないといけない――。


 しかも最悪なのは、圧倒的に敵が有利な場所に逃げ込んでしまったことだ。

 狭い空間では爆発の威力が増す。危険度は数段上がってしまった。

 令は一度なごみを見遣る。


「なごみはそこで待っていてくれ――準備が出来たら行く!」

「だいじょうぶ! 令くんならかてるよっ!」


 なごみがこちらに向けて両手でガッツポーズをしてくれる。

 そのなごみの気持ちが、令のこころをふるい立たせる。


「待ってろよ――! 必ず倒してやる!!」


 令は地獄へと続く穴をにらみつける――。

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