2-2

「この“器”はナア、頑丈なのよ――“爆発”にも耐えられるくらいナアアア……!!!」

 敵は月夜の下で銀色の眼光を凶悪に光らせる。


 しかし、敵が無傷であることへの動揺よりも先に、令は動いていた。

 敵が重い身体からだを完全に起こして立ち上がった瞬間にはもう、令は敵のふところにいた。

 問答無用で令はひとつしかない拳を高速で撃ち出す。

 いくつも、いくつも。目にも止まらぬ高速で。


「テメエは頭ワリィのかよ?! そんなんじゃあ倒せネエって言ってんだよ!!!」


 敵の言葉通り、令の無数の連打も、敵の身体に傷ひとつ付けることが出来ていなかった。

 己の屈強さに敵は絶叫する。

「屈強! 頑強!! 最強ォオオ!!! 誰もオレを傷つけられネエ!!!」


 その時、やっと令の拳が止まった。

 慣性に揺れる令の身体。


「ああ、そうだな。もう止めた」


 その言葉に敵が勝利を予感した――その瞬間。

 勝者であるはずの敵の視界は、どんどんと


「アレ――」


 またたく間に視界は地につき、敵は地面にいつくばった。

 それは昼間、女性を刺した男のように。


「ナ、ナニ――ッ? ナニが起きた――?!!」

 顔を横にして頬を擦りつけるように地面に倒れる敵の頭の中は、混乱に支配されていた。溢れ出るように原因を思考する。


 オレがぶっ倒れるほど重大なダメージはなかったはずだ。

 いやそもそも、ダメージなんて呼べるものはなかった。

 さっきの蹴りのダメージが今更きたのか? そんなまさか。

 こんなに、こんな風に身動きが取れなくなるようなダメージなんて、決してありはしなかった!!


 敵の脳内に、ふっとある考えが浮かぶ。

 むしろ、最も先に考えるべきだったことが。


 ――敵の“能力”。

 頭の中に、一気に考えが巡る。


 宙に浮かぶありえない威力の石――地雷を踏んでもダメージを負わなかった理由わけ――地面に伏して動かない身体――。

 全てに通じるものが、閃光のような鋭さで頭に閃く。



 ――“重さ”だ。



 石を空気の中をただようくらい軽くして浮かばせ、攻撃の瞬間だけ重くして威力を高めた。

 地雷を踏んだ瞬間に自身を爆発の衝撃で容易たやく飛んでいってしまうほど軽くし、衝撃を受け流した。

 そして――今コイツは、オレの身体を重くしている!! 身動き出来ないほどに重く!!



「やっと観念したか? ――このまま“器”をぶっ壊してやる」


 令はどんどんと地面にめり込んでいく敵を目の前で見下ろす。

 その頑強な巨体も、今はミシミシと不穏な音を立てて限界を主張していた。

「このヤロウ――オレにこんな無様な格好をさせやがって……。だがもうオマエの能力は把握した――!!」

「気付くのが遅いんじゃあないか?」

 令のその言葉に、敵は「ヘッ」と笑いを見せる。

 令はその反応に疑問を持った――が、何かを考えるより敵の行動が先だった。


 ――敵の“下”から、爆炎が上がる。

 それは連発花火のように連続して起こった。

 敵が、かろうじて触れているを、爆発させているのだ。

 敵の身体にさえぎられているものの、爆発のたびに激しい噴煙ふんえんが辺りに舞う。

「なっ、なにをやってやがるんだ――?!」

 令も手を出そうとするが爆発が激しすぎて手に負えない。


 地面を爆発させたところで、一体何の意味が――。自分の“器”をより損傷させていくだけじゃあ――。


 そこまで考えて、令の考えは、とほぼ同時に答えにたどり着く。


 物が崩壊する巨大な音を立てて、姿――。

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