第5話 とある骨董品屋の店長の独白

「ーーーー続いてのニュースです。本日未明、私立花開院女学院の教室内で多数の生徒が死んでいるのを、巡回していた警備員が発見しました。遺体は刃物で複数回刺された跡や首を絞められた跡があり、警察は生徒達が何らかの事件に巻き込まれたとして捜査を進めています」


 美人のアナウンサーが深刻そうな顔をして原稿を読むさまを横目に、ハタキを振るう。取り扱っているものが骨董品というだけあって、店には物好き以外には滅多に客が入らないから、定期的に掃除しないとすぐ埃だらけになるのだ。テレビの画面が切り替わって、くだんの女学院とやらの校舎と、被害者の女子生徒達の写真が映し出される。


「あ、」


 そのなかに、先日ウチで猿の手を購入した女の子の1人が映っていて、思わず声に出てしまった。3人で店に来たのに、ずっと黙りこくって友達2人の後ろを歩いていた子だ。そういえば猿の手の代償のろいから逃れたいとか言って、昨日も訪ねて来てたっけ。


「あーらら、結局願っちゃったのか」


 どうしても、どうにかしたいのなら

 猿の手に強く願ってみてご覧。

 そうすりゃ叶うかもしれないよ?

 なんて、自分でけしかけたものの、あの女の子がまさか本当に願うとは思っていなかった。あれほど猿の手に怯えていたから、てっきり気味が悪いと捨てると思っていたのに。藁にもすがる思いの者は、邪神といえども神頼みしてしまうのか。人間ってのはつくづく憐れで面白い。だからこそ猿神は、猿の手は人間を愛でる。だからどんな願い事も叶えてやる。ただし、その分の代償はきっちり払わせるのだが。猿の手は現実的な願望器具なのだ。


「フーン、フンフンフフフーン、ンーンーンンー………………ん?」


 鼻唄交りにハタキをかけていると、足元に置いてある日本人形の隣に見知った木箱を見つけた。


「あーそっか、願いを全部叶えたから戻ってきたのか。今回は随分と早かったなぁ」


 ハタキをエプロンのポケットに突っ込み、柊の模様が描かれた木箱を拾う。もう慣れたとはいえ、腕が同時に2つの事が出来なくて不便だ。木箱の蓋を開けて中身を確認する。そこには随分と小さく、乾涸びてしまったが納まっていた。折れた指はすっかり元に戻っていて、自然と口角が上がった。


「おかえり。次は誰と遊ぼうか?」


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私と彼女と誘惑する猿の手 2138善 @yoshiki_2138

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